おかしなふたり 連載1101〜1120 |
第1101回(2006年11月29日(水)) 「そう…だけど」 『え?何でそんなところにいるの?』 「何で…って?…オレに電話したんじゃないの?」 そういえば変である。 もしも歩(あゆみ)に連絡を取りたいのならば隣の部屋に来ればいいのである。さっきは実際にそうしたではないか。 『いや、違うよ』 歩(あゆみ)は混乱した。 |
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第1102回(2006年11月30日(木)) 『女の子のあゆみちゃん…ってこの言い方変だけどゴメンね…に電話したんだよ。何であゆみちゃん…ややこしいからあゆみくんにするね…あゆみくんが出るの?』 しまった! あのアホ妹が今の自分の携帯電話からこの番号を教えやがったに違いない。 こちとら多重人格の偽装工作なんてやってない。「あゆみ」用の携帯電話なんて準備している訳では無いので同じ電話に出ることになる。 背筋が冷たくなってきた。 |
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第1103回(2006年12月01日(金)) 「え…と…あの…」 何だか目の前の風景が歪んできた。 ヤバイ。これは本当にヤバイ。 このままだとバレてしまう…。 あの電車内でウェディングドレス着ておろおろしていたのが自分だとかもばれてしまうし、カラオケボックスでピンクハウスでノリノリで歌ってたりファミレスで女子高生の制服姿でいじいじしていたのが自分だということがバレてしまう。 |
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第1104回(2006年12月02日(土)) そりゃ自分で望んだことではないとは言え、幼馴染の男の子がそんなんでは絶対軽蔑される。 その時、隣のドアが開く音がした。 …恭子ちゃんは廊下に出ていた? 『あ、分かった』 ごくりと歩(あゆみ)はつばを飲んだ。 |
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第1105回(2006年12月03日(日)) 『あゆみくんとあゆみちゃんって…』 もう駄目だ…おしまいだ…。 歩(あゆみ)はその言葉の続きを想像した。 この論理で続く言葉は一つしかない。 『実は…』 同一人物なんでしょ? |
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第1106回(2006年12月04日(月)) 次の言葉が出てくるまでかなりの時間があるかの様に感じられた。 そして、余りにも予想外な言葉が次に出て来た。 『付き合ってるんでしょ?』 |
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第1107回(2006年12月05日(火)) 「…え?」 余りにも意外過ぎて想像も出来ない指摘が飛び出してきてしまった。 『いいよ別に。あたしらの仲じゃない』 何だか勝手に既成事実と化しているんだが。 「いやあの…」 『あーによ。照れちゃってもお!確かにあゆみちゃん可愛いしね。分かる分かる。うんうん』 |
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第1108回(2006年12月06日(水)) と、ここで少し音声が混乱した。 目の前の聡(さとり)と何やら話しているみたいだ。 流石の聡(さとり)も目の前の話し振りを聞いてこの緊急事態を察したのであろう…が、特に何かが出来る訳でもない。何しろ「あゆみ」に掛けたはずの電話に「歩(あゆみ)」が出てしまったことを否定出来る訳は無いからだ。 |
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第1109回(2006年12月07日(木)) ドアを開けたタイミングなどからして、「付き合ってるんでしょ?」部分は聡(さとり)は目の前で聞いている。 しかし…つ、付き合っている!? 状況からして誤解出来ないことも無いけど…なんてことを思いつくんだ。 |
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第1110回(2006年12月08日(金)) 『あ、もしもし?あゆみくん?』 「あ…うん」 『どしたよの?大丈夫?』 何だかはしゃいでいる声の恭子。明らかに面白がっている。 何となく分かる。 中学だった時の頃のこと、物凄く度胸のある奴がいた。 |
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第1111回(2006年12月09日(土)) どんなきっかけだったのか忘れたが、なの公衆の面前でクラスのある女子に堂々と告白してのけたのである。 幸運なことに告白した男子生徒も告白された女子生徒もそれぞれ人望があり、クラスの人気者だった。 加えて「あの二人は両思いである」との噂が耐えなかった。それが実証された形になったのである。 |
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第1112回(2006年12月10日(日)) この事態に熱狂したのがクラスの女子たち。 きっと告白した男子生徒に密かに思いを寄せていた女子もいただろうに、殆ど全校挙げてのお祝いムードになってしまった。 何だか分からないが、女子は「誰かが誰かを好きになって告白する」みたいなシチュエーションが大好きらしく全く関係ないのに感激の余り泣いている子までいた。何じゃそりゃ。 |
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第1113回(2006年12月11日(月)) つまり、この城嶋歩(あゆみ)がどこの誰だかは分からないけど、どこか陰のある謎の美少女を好きらしい…と。 これは年頃の女子高生の発想だ。 誰かが誰かを好きらしい!これはもうドキドキものの話なのである。 |
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第1114回(2006年12月12日(火)) う〜ん、これは参ったな。 明らかにノリノリではしゃいでいる。 まず、恭子が脳内で「付き合っている」ことにしている歩(あゆみ)と「あゆみ」は同一人物である。付き合うのは物理的に不可能だ。 |
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第1115回(2006年12月13日(水)) それに歩(あゆみ)はちょっとだけショックだった。 というのも、恭子ちゃんは十年くらい会っていなかったとは言え、幼馴染みで、小さい頃には妹と一緒に仲良く遊んでいた。 久しぶりに出会ってそう悪くない関係でいられていたと思うんだけど、それが別人と付き合っていることにこんなに喜ばれるとちょっと男としては複雑だ。 |
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第1116回(2006年12月14日(木)) 『ね?そうなんでしょ?ね?』 「えーあー…」 違うんだけど明確に違うとは言い切れない。 この付き合っている疑惑を否定しながら、それでいて兄妹の変身疑惑を回避するにはどうしたらいいのか? しかも、どこにあるのかも分からない「あゆみの家」(実在しない)にいつのまにか「歩(あゆみ)」がしけこんでいたことも説明しなくてはならない。 |
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第1117回(2006年12月15日(金)) 『あ〜によ〜照れちゃってもお!』 完全にノリノリだ。この子は本当にメンタリティが妹と同類である。 『じゃーさー』 話を切り替えてきた。 『女の子のあゆみちゃんに代わって』 |
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第1118回(2006年12月16日(土)) 口から心臓が飛び出しそうになった。 「…え?」 『名前が同じだからややこしいけど、替わってよ女の子のあゆみちゃんに…ってまさかさっきの電話聞いて無いでしょうね?』 そりゃ目一杯聞いてるよ。何しろ本人だし。 しかし認める訳にはいかない。 「あ、さっきの電話ね…うん。聞いてないよ」 |
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第1119回(2006年12月17日(日)) それを答え終わってから猛烈な後悔の念が脳裏を突き上げた。 遂に自らが「あゆみ」という人格が別個に存在することを裏書きする証言をしてしまったのだ。 もしも後で「どうしてあの時にあんなことを言ったのか」と突っ込まれれば申し開きが出来ない。 これまでだったら「事情を隠すつもりだった」で通るが、これはも引き返せない。 …この体質がいつまで続くのか分からないけど、これは何が何でも最後の最後まで隠し通さなくてはならない…歩(あゆみ)は決意した。 |
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第1120回(2006年12月18日(月)) しかし、替われと言われてそう簡単には行かない。 何しろ城嶋兄妹に備わったこの能力はお互いを性転換&異性装させることは出来ても、自分自身の身体を操ることは出来ない。 ところがその時だった。 …“予感”が来た。 もう回数を数えるのも忘れるほど女にされているので、いざ変身させられる前の“予感”を感じ取れるのである。 |