おかしなふたり 連載1241〜1260

第1241回(2007年04月22日(日))
 う〜ん、美しくて長い髪に憧れている女の子なら泣いて悲しがりそうな場面だ。知らんけど。
 鏡は無いけど多分これで何とかなるだろう。
 …自分で言うのも何だけど、「素材がいい」のでこの野暮ったい格好でも「美少女が男装している」様にしか見えないだろう。贔屓目に見ても「男の子」にちゃんと変装出来ているとは思えない。


第1242回(2007年04月23日(月))
 よし、もう躊躇っている暇は無い。
 歩(あゆみ)はドアノブに手を掛けた。

 慎重に押し開け、顔だけ出して左右を覗き込む。
 帽子が弾けて髪が流れ落ちるのを防がなくてはならないので勢い挙動が慎重になる。


第1243回(2007年04月24日(火))
 抜き足差し足で廊下を歩く「男装した美少女」状態の歩(あゆみ)。
 うう、自分の家なのになんでこんな泥棒みたいなことになってるんだろう。


第1244回(2007年04月25日(水))
 城嶋家は二階が子供部屋に充てられている。物心付いた時にはこの家に住んでいたが、二人が生まれてから建てられたらしい。
 家族計画で「一姫二太郎」ならぬ「一太郎二姫」で年子が生まれたので全く同じレイアウトの部屋を持つ家屋を設計したのである。


第1245回(2007年04月26日(木))
 今、二階には聡(さとり)と恭子しかいない…ことになっている。
 だから廊下を誰か歩いているとなったら大変なのだ。
 それにしてもこの能力が親バレしたらどうなるんだろう…何度も考えたけど幾ら考えても仕方が無いよね。


第1246回(2007年04月27日(金))
 聡(さとり)の部屋の中からは何だか話し声が聞こえる。
 うむ、よしよし。一応足止めに協力してくれているみたいだ。
 抜き足差し足でとぼとぼと階段を下りていく。
 この間はここをウェディングドレスで駆け上がったんだよなあ…と苦いんだか甘いんだか分からない思い出が湧き上がる。


第1247回(2007年04月28日(土))
 夫婦も子供もかなり若い時に設計されているので、それなりに階段の傾斜が急である。
 「この位なら大丈夫だろう」ってことなんだろう。
 実際、ここを登った程度で息が切れたりはしないのだが、慎重にも慎重に立ち回らなくてはならない時にこの環境はちと辛い。


第1248回(2007年04月29日(日))
 城嶋家の構造は玄関を入ってすぐに二階への階段が見えている。
 つまり、階段から玄関を出るにもほぼ一直線で行ける。…父はまだ会社だが、専業主婦の母にも見られる可能性は低い…はずだ。
 何しろ一人息子が花嫁姿で帰ってきた時も運良く目撃されずに済んでいるのだ。その意味では運がある。
 …ことにしとこう。


第1249回(2007年04月30日(月))
 こういう時にはギシギシ言う小さな音が恨めしい。
 ともあれやっとこさ階段の一番下にまで到達する。
 よし!勝った!
 何に勝ったんだか分からんけど、とにかくやったのだ。
 自分の靴に向かってその細い身体を伸ばし、足を突っ込む。


第1250回(2007年05月01日(火))
 こういう挙動をすると「背が縮んでいる」ことが嫌でも実感される。そりゃもう気にし始めれば全身違和感の塊(かたまり)なんだが、その辺りはどうにか意識的に遮断する訓練が出来つつあった。
 今は服も男物だしね。


第1251回(2007年05月02日(水))
 聡(さとり)がどの程度気にしているのか知らないが、足の大きさはそれほど極端には違わないみたいだ。
 もしかしたら自分の靴は合わなくて聡(さとり)の靴を拝借しなくてはならないかな?と思っていたけど何とかなりそうだ。


第1252回(2007年05月03日(木))
 とにかく「外から帰ってきた」形にしなくてはならないから、一刻も早く外に出なくてはならない。
 歩くたびに踵(かかと)が浮き上がるスニーカーを駆ってドアに向かって歩き出した。
 その瞬間だった。


第1253回(2007年05月04日(金))
 ドアが勢い良く開いてきゃいきゅい言う黄色い声が響いてきた。
「…っ!!」
 歩(あゆみ)はびっくりして目を見開いた。
 そこには良く見る女子高生たちがいた。
「あ、こんにちわー!」


第1254回(2007年05月05日(土))
「あ…あの…」
 咄嗟に言葉が出てこなかった。
 聡(さとり)の友達たちだ。見覚えのある顔もちらほら。そう、カラオケ屋で一緒になった同級生たちである。


第1255回(2007年05月06日(日))

 迂闊(うかつ)だった。
 年中パーティ開いてるみたいなあの開けっぴろげな性格の我が妹がテスト期間中で半日で学校が終わるこんな日に友達を呼んでいない筈(はず)が無いのである。
「ご、ごめんっ!」


第1256回(2007年05月07日(月))
 ここは係わり合いになっている暇は無い。
 今の自分は「たまたまここに居合わせた人」だ。うん。
 慌てて彼女達の間をすり抜けて外に走って出ようとする。
 その時だった。
「あっ!」


第1257回(2007年05月08日(火))
 混雑気味の玄関においてタダでさえ人がひしめいているのに大急ぎでその合間を掻き分けようとするもんだから悲劇が起こったのだ。
「きゃっ!」
 いつもより二割増しで小柄になっている小さな身体が一瞬浮き上がった。
 必死に空中制御して踏ん張ろうとする。が、女の子達は親切にも抱きとめてくれた。


第1258回(2007年05月09日(水))
 どむっ!とその身体にぶつかってしまう歩(あゆみ)。
 柔らかい感触と、炎天下を歩いてきた熱気が伝わる。
「大丈夫ですか?」
 やっと落ち着いた歩(あゆみ)。
「ご、ごめんなさい!」


第1259回(2007年05月10日(木))
 妹の友達たちとはいえ、直接友人である訳では無い。あっちはこちらの教室にしょっちゅうやってくるが、こちらは聡(さとり)の教室にしょっちゅう顔を出す訳では無いのだ。
 なのに突然つまづいて体当たりしてしまったのである。申し訳なくてたまらない。


第1260回(2007年05月11日(金))
「ごめんね!ごめんね!」
「い〜え〜!いいんですよ!」
 3人とも笑顔が素敵な女子高生達だ。聡(さとり)と同じで新一年生。一学期だから高校に入ったばかりの、ついこの間まで中学生だったぴちぴち(死語)である。