おかしなふたり 連載1521〜1540

第1521回(2008年04月12日(土))
「お兄ちゃん、お兄ちゃんの部屋だとあたしが気軽に男の子になっちゃうか実験したいんだけど」
「…そうか?」
「…気が進まない?」
「いや、そんなことは無いけど…」
 そうは言うが、聡(さとり)に比べれば妹を性転換することに消極的なのは間違いなかった。


第1522回(2008年04月13日(日))
「もっと気軽にやっていいんだよ?」
「む〜ん…ま、いいけどさあ。オレって男のファッションに特に興味ないからなあ。お前らと違って」
「そうかもね。お兄ちゃんが特別ダサいとは思わないけど、それほどファッションに興味あるとは思えないもん」
「お前だって自分の兄貴が男物のファッション雑誌片手にメイクしてるヤローなのは嫌だろ?」


第1523回(2008年04月14日(月))
「そーねー。そういうのが似合わないとも思わないけど…やっぱ嫌かな」
「だろ?だからまあ、その辺はな」
「じゃあさあ、あたしが準備するからリクエストしてもいい?」
 身を乗り出してくる聡(さとり)。
 今にも飛びつかれそうである。
 子猫みたいな可愛らしさだ。これをナチュラルに身に付けているのだから全く小悪魔というところだ。


第1524回(2008年04月15日(火))
「それは何だ?その…男物のファッション雑誌とかをお前が用意するからその格好をさせろってことか?」
「うん。だってどんな格好させればいいか悩んでるんでしょ?だったら資料を提供してあげる」
「まあ…そこまで言うんならこっちは構わんけど…」
「じゃあ、お礼にあたしはお兄ちゃんを好きな格好させてあげるから」
「いや…だからそこが余計なんだって」


第1525回(2008年04月16日(水))
「うう…つーかあたしは等身大の着せ替え人形が手に入って嬉しいんだよねえ」
「オレの意思は無視かよ」
「そこは我慢してよ。つーかドライに行こうドライに。歌舞伎役者の人はいつも女装してるよ?」
 どうもおかしい。
 これからのことをミーティングするはずが、いつの間にかまた着替え談義になっている。


第1526回(2008年04月17日(木))
「あーともかくだ。この部屋にいて、しかもオレが外にいる時には意識して気をつけて欲しいってことだ。うん」
「そーね。それくらいしか無さそう」
「てゆーか頼むぜ。またこの間の電車の中の時みたいなのはゴメンだぜ」
「もー!あのことなら謝ったじゃない!」
 台詞だけ見ていると怒っているみたいだが、実際はとても楽しそうである。
 兄妹で無ければ中のいい恋人同士の様だ。


第1527回(2008年04月18日(金))
「これから色々あるから、一年生はさっさと帰っても二年生は学校に残ってることだってあるんだ。そこで突然…とかなったら適わんからな」
「そうよねえ…タダでさえ厄介なのに、これじゃああたしって自分の部屋にも居辛くなっちゃう」
「そこは悪いとは思うが…」
「つーかお兄ちゃんも一緒だからね。自分の部屋に居るときには気をつけてよね?」
「…そうか。そうだな」


第1528回(2008年04月19日(土))
「じゃちょっと実験。そうねえ…」
「ちょ、ちょっとま…」
 まだ心の準備が…。
「巫女さんとか」
 と、言われた瞬間だった。
「うわわわわっ!」
 ぼむっ!…という音はしなかったが、一瞬にして歩(あゆみ)は楚々とした巫女さんになってしまっていた。
 色々な気持ちが脳内を走り抜け、その場でへたりこんでしまった。


イラスト:おおゆきさん

第1529回(2008年04月20日(日))
「…」
 まじまじと自らの身体を見下ろす歩(あゆみ)。
 床にへたりこんだので、身長の違いについては意識出来なかったが、床に広がるはかまが何とも可愛らしい。
「…可愛い…」
 うっとりしている聡(さとり)。
「…成功みたいだな」
 務めて冷静に受け答えする歩(あゆみ)。
 声が変わっているのが分かる。

第1530回(2008年04月21日(月))
 何故か聡(さとり)はこちらを性転換させる時にはムチャクチャ髪が長くなる。
 今も床につくほどの長く、大量の髪が首の後ろを覆っている。正直暑い。


第1531回(2008年04月22日(火))
 結局この夜もロクな試験勉強は出来なかった。
 その後聡(さとり)は俺…つまり、歩(あゆみ)の部屋にやってきて、今度は逆ファッションショーとなったからだ。
 お互いの部屋にいるさいは、その部屋の主人の能力が簡単に発動することになっているらしいので発動が容易だったのである。


第1532回(2008年04月23日(水))
 聡(さとり)は自前のファッション雑誌を持ち込み、こちらに見せ付けながらそのブランド名を宣言する。
 それだけで見る見るうちにぴちぴちの女子高生は爽やかな男子高校生となり、ファッション雑誌から抜け出してきた様な(当たり前だが)オシャレな衣装に身を包むことになるのだ。
「わーお!」


第1533回(2008年04月24日(木))
 なんとも妙なリアクションである。
 聡(さとり)が男の子になった時の「リアクション」というか「立ち居振る舞い」については統一されたものはない。
 今どき「〜だぜ」でも無いだろう。
 我が妹は殊更(ことさら)「女言葉」でもないのでそれほど不自然ではないのだが、一人称は「あたし」だったりするのでその辺にギャップがあるといえばある。


第1534回(2008年04月25日(金))
「どお?お兄ちゃん?格好いいでしょ?」
「…そうだね」
 女の子のファッションにもそれほど興味が無いのに、男の「オシャレな格好」を見せ付けられて批評を求められても困る。
「あのさあ…」


第1535回(2008年04月26日(土))
 なんとも言いにくいことだった。
 それも表現しにくい。
「その…何というか」
 そう、骨の髄まで身に付いている可愛らしい仕草は肉体的に男の子になっているからといって簡単に払拭されるものではないのである。
 お気に入りの(男の子の)ファッションを見せ付ける聡(さとり)のポージング…腰をひねって片足を上げる…は完全に「女の子」のものだったのだ。


第1536回(2008年04月27日(日))
 歩(あゆみ)の好みなのか何なのか分からないが、ある意味「性別不詳」な風貌になっているのである意味「あり」なのだが、やっぱり違和感はある。
「あ、ごめんごめん。どーしてもこーなっちゃうね」
 ニコニコ笑顔なので罪は無いが、こうしてみるとやっぱり「少年」という風である。


第1537回(2008年04月28日(月))
「ま、とにかくこれでお互いの部屋でお互いを変身させやすいってことが分かったね」
 何故か“えっへん!”とばかりに胸を張っている聡(さとり)。
「だからこれからもお兄ちゃんも気をつけてよね…じゃなくて気をつけろよ!兄貴!」
 無理に『男の子』を演じようとしているのだろうが、何だか演劇部の女子部員みたいな感じである。
 それはそれで可愛いのが何とも複雑である。


第1538回(2008年04月29日(火))
「つーかお兄ちゃんも自分の部屋でいい年こいたヤローと二人っきりってのは気分が悪いでしょ?」 
「…いや別に」
「まーまーそう言わずに!」
 と言うが早いが歩(あゆみ)の全身に違和感が襲ってきていた。
「うわわっ!」


第1539回(2008年04月30日(水))
 もう同時に両脚が涼しくなっていた。
 確認するまでも無くスカートである。
「だったらやっぱ男女かなと」
「…で、俺が女なんだ」
「いやーやっぱそれが自然かなと」
 名前も知らないが、歩(あゆみ)の方もファッション雑誌から抜け出してきたみたいな可愛らしい服装になっていた。
 もうホットパンツと変わらないほどのミニスカートがポイントだ(何の?)。


第1540回(2008年05月01日(木))
「お兄ちゃんも鏡買おうよ。つまんないでしょ?」
「そんな金ねーよ」
「あ、あれ別に買ってないよ?」
「…そうなの?」
 聡(さとり)の部屋に置いてある全身鏡のことである。

  




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