おかしなふたり 連載1501〜1520

第1501回(2008年03月23日(日))
『あ…ごめんごめん。もしかしたらと思って』
「何すんだよ!」
『でもこれで分かったね。この部屋にいればお兄ちゃんの行動もある程度操れるよ』
「おい!冗談じゃねえぞ!」
『ごめんごめん…お兄ちゃんどう?』
「何が?」

第1502回(2008年03月24日(月))
『む〜ん、行動はあくまでも「ある程度」ってところみたいね。完全には操れないみたい』
「お前なあ…人をおもちゃにするなよ」
『いつも言ってるのに…お兄ちゃんだってあたしをおもちゃにすればいいじゃん』
「…」
 そう言われると一言も無い。だが、その「後始末」の事を考えると面倒くさくなってしまうのである。


第1503回(2008年03月25日(火))
「まあいい。じゃあ今度はこちらを戻す遠隔操作をしてくれ」
『了解。ちょっと待ってね。』

 聡(さとり)は携帯を片手に自室のドアを開けて廊下に出る。
 そしてすぐに兄の部屋に踏み込んで鍵を閉めた。

『お兄ちゃんの部屋にいるよ』


第1504回(2008年03月26日(水))
「すぐこっちを元に戻すイメージをしてくれ。今までの衣装に比べればマシだけどもすぐ戻りたい」
『“綺麗なお姉さん”になれて結構まんざらでも無いんじゃないの?』
「やかましい!いいから!」
『へいへい』
 歩(あゆみ)はしばらく自分の身体を見下ろしていた。
 だが、スレンダーなその肢体が変化する気配は無い。
「おい、どういうことだよ」


第1505回(2008年03月27日(木))
『目一杯イメージしてるよ。多分あたしの部屋じゃないから時間が掛かるんだよ』
「…ちょっと待てよ」
 歩(あゆみ)には思いつくところがあった。
『お前さあ、前からなってみたいものがあるって言ってたよな?』
「ん?そうねえ…って何でよ急に?」


第1506回(2008年03月28日(金))
「いや、もしかしたらと思ってね。」
『何がもしかしたらなの?』
「だからそれに変えられるんじゃないかと」
『まーそれでもいいんだけど』
「おい」


第1507回(2008年03月29日(土))
『大丈夫だって。流石に』
「信用ならんなあ」
『すぐに戻してあげるから』
「いい加減にせんと怪しまれるぞ」

第1508回(2008年03月30日(日))
『それはそーとさあ』
「なんだよ」
『めぐさんからの電話だけど』
「今その話はいい」


第1509回(2008年03月31日(月))
 …ここまでさんざん引っ張っておいて非常に申し訳ないんだけど、実はあの後も大変だった。
 何がどう大変だったのか説明するのも面倒臭いくらいに面倒くさい。


第1510回(2008年04月01日(火))
 結局、この事件の顛末で分かったことは

1 聡(さとり)は自分の部屋に入る時には、些細なことで歩(あゆみ)を性転換&女装させてしまう
2 自分の部屋以外ではそれほどでもない

 ということだった。


第1511回(2008年04月02日(水))
 とはいえ、それが分かったからどうなるというものでもない。
 何故こんな現象が起こるのかも分からないが、そもそもお互いを性転換&異性装出来る能力を持つ兄妹というだけでムチャクチャな話なのだから、今さら非現実的だの何だのというレベルで語れる話ではないのだが。

第1512回(2008年04月03日(木))
 何しろ発動して三週間程度しか経っていない能力なのでまだまだ分からないことだらけである。
 自宅にいる時ならばともかく、もうお互い高校一年生と二年生なのでめいめい勝手にプライベートを過ごしている。
 自分の部屋にいるだけでそんなことになってしまうとなると、これからの生活を大いに考え直さなくてはならないことになる。


第1513回(2008年04月04日(金))
 結局、歩(あゆみ)の部屋に移動した聡(さとり)はイメージをすることで歩(あゆみ)を元に戻し、歩(あゆみ)はそのまま歩いて自宅に引き返すことが出来たのだった。


第1514回(2008年04月05日(土))
 部屋の中とか、出る直前とか色々ややこしいことがあり、特に「別人」として認識されてしまっている「あゆみ」の存在について随分問い詰められて閉口した。
 恭子ちゃんなんて、完全に「あゆみ」の方に親身になってしまっていて大変である。
 しかも、いつの間にか歩(あゆみ)が「あゆみ」と付き合っていることになっていた。


第1515回(2008年04月06日(日))
 必死に否定を繰り返して、とりあえず「自宅に行くこともある友達」くらいのレベルに落ち着けてもらうことに成功した。
 聡(さとり)の同級生の女の子たちも必然的にその話の輪に加わる。
 この年代の女の子たちにとって、同級生の兄貴の恋愛沙汰なんて朝まで話しこめる格好の題材である。
 学年が一つ違うはずの恭子たちともすっかり打ち解けて仲良しサークルと化していた。


第1516回(2008年04月07日(月))
 当然ながらテスト勉強なんぞ丸っきり進まなかった。
 元々、前日になってどうにかなる様な話ではないのだ。
 それでもまあ、一年生の時とかどうにかなってたんだよな。
 本当にいい加減な話である。


第1517回(2008年04月08日(火))
 大体、こんなことして何になるのか?
 ここで必死こいて覚えたことなんて、将来どうこうじゃなくても数ヶ月後にはもう綺麗サッパリ忘れてしまうではないか。
 自慢じゃないが、中学時代の中間試験の歴史の年号なんて一つも憶えていない自信があるぞ。
 …とかまあ、難しいことも考え勝ちであるが、とりあえず試験を突破してしまうことだ。


第1518回(2008年04月09日(水))
 実の子が、母親自身も着たことも無いであろうきらびやかな女物の衣装を毎日着まくっていることなど露知らずに夕食を済ませ、それぞれの部屋に帰っていく兄妹。
 そんなこんなで、聡(さとり)の部屋でミーティングとしゃれこむ城嶋兄妹。


第1519回(2008年04月10日(木))
「とりあえず、そういうことみたいなんだ」
「…やっぱやりすぎちゃったのかしらん」
 当然ながら罪悪感の無い我が妹。
「でも、考えないといかんよな」
「あたしやだよ。自分の部屋だもん」
 そりゃそうだろう。兄貴のことを考えて自分の部屋にロクにいられないなんて話が承服出来るはずもない。


第1520回(2008年04月11日(金))
「じゃ、実験してみようか」
「いや、いいよ」
 話がややこしくなるから…ということにしておく。
「ま、幸か不幸かもうすぐ夏休みになるからな」
「…っつってもこの体質が治るかどうかなんて分からないよ」
「そうなんだよなあ…」
 腕組みをして頭を抱える歩(あゆみ)。

  



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