TS関係のオススメ本02-06
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「パパとムスメの7日間」(2006年・五十嵐 貴久・朝日新聞社) |
パパとムスメの7日間 |
出版社による宣伝文句は以下の通り。 いまどきの高校生・小梅と、冴えないサラリーマンのパパ。ある日突然、二人の人格が入れ替わってしまったら? 「いつまで、こんなことが続くのだろう。(中略)あたしたちは二人揃って鏡に向かってお祈りした。明日の朝、目が覚めたら、お互いが元に戻っていますように」。 ドキドキの青春あり、ハラハラの会社員人生あり。ハートウォーミングな家族愛を描いた笑いと涙のノンストップ・エンターテインメント長編! この装丁と代わり映えのしないストーリーの要約から見て「これは大したこと無いんではないか?むしろ地雷では?」と思っていらっしゃる方も多いでしょう。 森博嗣氏の「墜ちていく僕たち」みたいに、それまで特にTS作品を書いたことの無い人が一念発起(?)してTSものを書いた場合、その命運は大きく2つのパターンに分かれます。いや三つか。 @ いざ書いてみたら自らの煩悩が爆発し、「女になってこんなことやあんなことをしてみたい!」という快作になってしまった。 例:「オレの愛するアタシ」、「ふたば君チェンジ」、「まるでシンデレラボーイ 」etcetc…。 A 何となく書き始めたはいいが、途中で照れくさくなって方向性を見失い、何が何だか分からなくなってしまった。 例:「墜ちていく僕たち」その他 B そのシチュエーションを最大限に利用し、一級のエンターテインメントに仕上げてしまう(それもTS畑ではないことがいい方に働いている) …Bの例は沢山あるのですが、それはこれから徐々に紹介していくことにして、この「パパとムスメの7日間」は間違いなくBに該当します。 つまり、「当たり!」だった訳です。 * * * * * * * * * * * * さて、これから「読みどころ」の解説の方に入っていく訳ですが、内容的にどうしても「ネタバレ」っぽい記述を含んでしまいます。ただそれは「TS的なネタバレ」というのが第一です。 TSファンとて無尽蔵にお金を持っている訳では無いので(それは痛いほど分かっています(;´Д⊂…)、該当していれば全て買える訳ではありません。昔は本当に数が少なかったので、探してでも買わないといけなかったのですが、今は時代が良くなりまして何と「選んで」買う時代となりました。 私がこうして解説をする意義は「結局のところTS的にはどうなのよ?」というガイドをお求めの方の要望に応えることだと思うのです。 ですので「こういうシチュエーションですよ」というところを魅力たっぷりにご紹介しますので、その上で購入の際の参考になさってください。 内容の面白さについては私が責任を持って折り紙をつけますので、「読むときに取っておきたい(*^^*」と言う方は直(すぐ)にご購入していただいて大丈夫です。 * * * * * * * * * * * * まず、バリバリの「女子高生」と「47歳の父親」の入れ替わりです。 普通に考えれば物凄く美味しいシチュエーションです。…が、TSを描きなれない作家さんが良くやりがちなのが「お約束」を悪い方に解釈して「小説としてはよく出来ているのかもしれないけど、TS小説としては全くなっていない」というものになってしまうこと。 こういう「荒唐無稽」なお話というのは「いざそれが起こったときのシミュレーション」がかなり説得力を持って描かれていないと途端に白けてしまうものです。 私は何度も煮え湯を飲まされてきたもんです。 テレビドラマ「放課後」において、観月ありさの中に入った男(名前とか忘れた)は、「うおー短けえスカートだ。うりゃうりゃ!」とか言ってばさばさスカートをめくって見せたりします。あ〜あ。 あのですねえ、いくらギャップが萌えどころったって、「可愛い美少女にガサツな言葉遣いや乱暴な挙動を取らせればいい」的な安易な発想はもう飽き飽きなのですよ。ましてや「いきなり流暢に女言葉を扱う」など言語道断。すぐに本を閉じますね。 ところがこの「パパとムスメの7日間」は全く違います。 真城は不勉強にして五十嵐貴久さんという作家さんを存じ上げていなかったのですが、実に抑制の効いた筆致で丁寧に著述してあり、これだけの突飛な出来事が起こっている一種の「極限状況」でありながら「なるほど、この様にしたのならばこういう展開もありえるだろう」としっかり思わせてくれるものに仕上がっています。 二人はとある事故を機に入れ替わり、ある事件(これはナイショ)をきっかけに元に戻るのですが、面白いのは入れ替わる側の「女子高生」を必ずしも好意的に記述していないことです。 要は「父親を生理的に嫌悪し、煙たがる年頃の女子高生」なのですね。ですから、読者はこの「娘」に対して序章を読み進む内に自然と「反感」を抱くように構成されています。 何しろ父親が濡れた足で立ったバスマットに触れるのも嫌で、父親の入った風呂の水を抜くという徹底振り。 ですから「花も恥らう女子高生」が「くたびれたおっさん」になってしまっても「いい気味だ」という感慨を浮かべるに至ることになるわけです。 面白いのは、「入れ替わった状況」が全て物語を有機的に転がしていく道具として最大限に活かされるように配置され、計算されているということ。 例えばお父さんになってしまった女子高生は父親が過去に同僚に誘われてキャバクラに行ったことがあるらしい過去を記憶し、「戻った暁にお小遣いアップのゆすりネタとして使う」ことを画策します。 女子高生となった父も負けてはおらず、男の子とデートさせられる羽目になるものの、何とか娘への好意を失わせようとハンバーガーとドカ食いし、愛想悪い態度を取ったりします。 ところが!これが何と裏目に出てしまうんですね(^^。 このパパは実は映画マニアで、男の子と映画談義で盛り上がってしまい、男の子は「意外な面を発見した」と却(かえ)ってポイントアップ。しかも、「愛想悪くしよう」と黙り込んでいると「清楚で大人しい女の子だ」と勘違いされる始末。いやあ、最高です(*^^*。 化粧品開発会社に勤める父はたらい回しにされた「大型プロジェクト」の形式だけの責任者。幸い入れ替わる寸前まで大半の仕事は終わっていた為、中身は女子高生でも「うんうん」言っていれば何とかなる状態に。 しかし…「そこさえ乗り切れば」という最終会議の正にその瞬間、偶然新商品の「最大の顧客層」であった(中身が)彼女は、「女子高生の本音」を叩きつけるというタブーを犯す! 会議は紛糾するが…!? …というのが主な筋立て。 女子高生の目から見た「大人社会の矛盾」が図らずも浮かび上がり、そこにカタルシスを持ってくる構造になるのは正に職人芸!「ノンストップ・エンターテインメント長編」の謳い文句は伊達ではありません! 要するに娯楽作品として一級なのです。 え?結局この二人は元に戻れるのかって? それは読んでのお楽しみ。 ここからが「普通の書評」と違うところです(爆)。 ずばり「TS的名場面」!行って見ましょう(*^^*。 この手の小説で本当におろそかにして欲しくないのが「細かいシチュエーションのディティール」なのです。 お互いに入れ替わって生活をするということは、47歳のサラリーマンが毎日女子高生の制服を着たり脱いだりして女子高生として日常生活・学園生活を送らざるを得ない、ということです。 本来ならば、そこのディティールを書き込むだけで一冊の本になるほどです(爆)。 しかし、押さえるべきところは押さえつつもコンパクトにまとめなくてはお話が前に進みません。 この「着替え」をどういう手段で行ったのか? それは、この手の漫画では稀に見られる手法(?)ですが、入れ替わった女の子の肉体を「目隠し」させ、男の肉体の側(中身は男)が着付けてやるんです。 その部分を少し。 115ページより(括弧内補足、文字強調は引用者。以下同じ) ************ 問題なのは、私のセーラー服だった。着替え自体は例によって厳重な目隠しをされた上で小梅(娘の名前)がしてくれたからそれでよかったが、何しろスカートを穿くのが人生初の出来事だったのだ。 とにかく股間が頼りない。おまけにスカートはどういう意図があってのことか、凄まじく短く、恥ずかしさで死にたくなった。 (中略) それからしばらくの間、スカートを穿いたまま部屋を歩かされ、立ったり座ったりする場合の基本動作の習得に努めた。私の四十七年間は、こんなことのためにあったのだろうか。 ************ …最高です。 これはなまじTSシーンを描きなれていない作家さんであるからこその新鮮でかつ丁寧な記述が見事。そして、被害者のもっともな感想…と一級のシミュレーションになっています。 女子高生となって、短いスカートで女子高生としての仕草を練習させられる中年…。 …これだけでもお腹一杯です(核爆)。短い記述ですが、無限の想像力を刺激させる正に名場面! さて、着替えるのはいいけど風呂とかは?と思ったあなたは鋭い! 順番は前後しましたが、これまた「目隠しをされた状態」で無防備な女子高生を47歳のおっさんがごしごし洗うことになるんですよ(見た目)。 皆さん想像してください。 あなたは入れ替わりによって女子高生の身体になってしまいました。 その状態で目隠しをされ、風呂場で全裸にされた状態で全身を他人の手によってごしごし洗われているのです!勿論形式上「自分で自分の身体を洗って」はいるのであんなところやこんなところも結構容赦無しです。 我慢出来るんでしょうか(スミマセン…orz。 92ページより ************ 「早くしてくれ」目隠しをしたままのパパが体の前で手をクロスさせた。「恥ずかしいぞ、これは」 バカなことを言わないで。こっちだって恥ずかしいんだから。 後ろからブラを取った。こんな父娘、世界中探したっていないだろう。 ************ いいですか皆さん? 女子高生の体になった中年男が、全裸状態で恥ずかしそうに両手でその乳房を隠して体をひねっているんですよ。しかも目隠し状態で。 なんてうらやまし…じゃなくて刺激的な場面でしょうか! 簡素な記述だけに正に想像力は「∞(無限大)」!!もうご飯三杯は楽勝です(核爆)。 ちなみにこうした儀式は毎朝繰り返されます。 彼は娘の許可が無ければ勝手に着替えることを許されないので、毎朝目隠しをされてはパンティにブラジャー、下着一式からの女子高生の制服を着付けてもらうことになるのです!! ある日寝る前にブラジャーを取ってもらえず、とても苦しい状態で寝ざるを得なかった時なんてもお! 母親(主観的には妻)には「ブラジャー健康法よ」と苦しすぎるいい訳。 …もう殿堂入りさせていいですか? この他にも娘の人間関係が心配で駆けずり回る父が 「この調子でいけば、小梅は日ならずして二キロのダイエットに成功するだろう。喜んでもらえるのではないだろうか。」(138ページ) なんてモノローグをする小粋な場面もあり。 姿は女子高生なのに中身がベテランのサラリーマンというギャップが正に「萌えどころ」なんですが、この匙(さじ)加減が非常に難しいもの。 サラリーマンの肉体に入り込んだ娘と携帯電話で必死に打ち合わせを繰り返すのですが、こんな名場面もありました。 204ページ ************* 隣の席に座っていた三十代くらいのスーツを着た男が、煙草を加えたまま不思議そうに私を見つめていた。それはそうだろう。ヘンリーネックの青いシャツにカーキのサイドギャザーパンツ、エナメルの時計をしている私はどこから見ても女子高生そのものだが、にもかかわらずこなれたビジネストークを繰り広げているのだから、不審に思われても仕方が無い。 ************* …いつからこんなにオシャレになっていますか?(羨怒)! しかも自分自身を「私はどこから見ても女子高生そのもの」たあ、パパも中々いうじゃないですか(*^^*。個人的には私服がスカートでないのもポイント高し!男は普通に私服のレパートリーにスカートを入れることはありません。恐らく何とかズボンっぽいものを探して着たんでしょうね。このいじましさが可愛いッ!! しかし! こういう「何の気も無く可愛い」状態こそが本来TSファンが追い求めていた「ボクっ子」とか「オレっ子」の理想的形態なのですよ! 何も自分を「オレ」とか「ボク」と呼ぶことそのものが目的でも何でもないんです。 正直、ここまでの拾い物だとは思いもよりませんでした(*^^*。 もうTSファンには「いいから買いなさい!」と言うのみ! 確かに1,700円は安くは無いんですが、映画を一本観たと思えばいいのです。お金の無いTSファンは文庫化されるのを待つのもありでしょう。とにかくまた自信を持ってオススメ出来る一作が登場しました(*^^*。嬉しい限りです。2006.11.19.Mon. *2007年07月16日(月)追記 大変喜ばしいことに目出度く映像化され、連続ドラマとして今が旬の役者さんと一流スタッフによって放送されております。 ちょっと恥ずかしくて録画はしていますが、まだちゃんと観ていません(*^^*。 個人的にはこの小説版には何の不満も無く、これで100%満足しておりますが、ドラマも面白ければ何より。 というか、これで原作小説がもっと売れてもらうと嬉しいです(;´Д⊂…。 |