おかしなふたり 連載531〜540

第531回(2005年03月06日(日))
「ちがうって!ちがうって!とりあえず朝までよ」
 相変わらずスマイリーマークみたいな笑顔で言う聡(さとり)。
「・・・何だと?」
「あたしってこの能力でしょっちゅうお兄ちゃんを女の子にしてるけど、狙って長時間放置したことって無いじゃない?だからその実験よ」
 狙って・・・狙ってか・・・。
 歩(あゆみ)は少し考え込んだ。
 確かに言われてみればその通りかもしれない。
「あたしの予想だと、多分永続するって事は無いと思うのよ。でも変えたあたしもその事を忘れっぱなしにしたまんまでどれ位持続するのかってのは分からないし、それに『想像しただけで勝手に変わることがある』ことは分かっても『勝手に元に戻る』ことがあるかどうかも調べたいじゃない?」
 虚を突かれた。


第532回(2005年03月07日(月))

 そうか・・・『勝手に元に戻る』か・・・。
 これまでは『勝手に変わる』ことばかり考えていて『勝手に戻る』ことは考えたことが無かった。
 確かに理屈の上では同程度はその確率もあるわけだ。
 先日はこちらが電車に乗っていて『勝手に』花嫁にされた訳だが、それこそ女子高生になってその中に紛れているときに・・・例えば聡(さとり)がくしゃみをして、それをきっかけにして・・・男に戻ったりしたら・・・ということか。
「ふん、確かにそうだな」
「ポイントはあたしが忘れるかどうかってことだと思うのね」
「・・・忘れないだろ?」
「どうかな〜?」
 そりゃあんだけ頻繁に実の兄を性転換させてりゃいちいち覚えてないのかもしれないが・・・。
 まあいい。この実験には確かに意義がある。
「よしのった」
 その瞬間だった。


第533回(2005年03月08日(火))
 ぶわさ!と艶(つや)やかな黒髪が流れ落ちる。
「うわっ!」
 思わず声が出てしまう歩(あゆみ)。
「そうと分かれば善は急げよ」
「お、お前なあ・・・」
 と、言ってみてその声が可愛らしいものに既に変わっていることに気が付く。
「お兄ちゃん」
「・・・何だよ」
「確かに服だけ戻したりは出来ないけど、“部分”だけ変えることって出来るのよね」
「・・・声だけ変えたりとかか?」
「きゃー!かわいい〜!きゃー!」
 見た目は・・・長い髪を除けば・・・ごく普通の男子高校生なのだが、その声は澄んだ声なのである。違和感バリバリだった。
 確かにこの能力は部分を先行して変える事が出来る。その上、変化させる順番もかなり任意に操ることが出来る。


第534回(2005年03月09日(水))
「この“部分”もやっぱり“不自然な状態”って事になるのかな?」
「え?何だって?」
 声は変わったままだが、聡(さとり)はとりあえず変化を進行させるのをストップさせていた。
「だからさあ、さっき服だけ戻すとかは無しって話になったじゃない」
「・・・ああ」
「つまりよ・・・」
 突如むくむくっ!と歩(あゆみ)の乳房が盛り上がってくる。
「・・・っあ!」
「こんな具合におっぱいだけ変えたまんまどれ位持つのかとか」
 思わず「人を実験台にするな!」と言いそうになったが、これからやろうとしているのは正にお互いの身体を実験台にすることであるからそこは飲み込む。
「でしょ?」
「・・・まあな」
 だが、ここは歩(あゆみ)は続ける。


第535回(2005年03月10日(木))
「しかし、そんな実験はいらんだろ。幾らなんでも一箇所だけ変えっぱなしで長時間持たせるシチュエーションが分からん・・・ってすぐに変えないなら声戻せよ!落ち着かんから」
 自分の声が慣れた物で無いというのは結構ストレスなのである。現在の所この「お互いを性転換&異性装出来る」能力の主な使い道は妹が兄を自室で着せ替え人形にすることでほぼ全てである。つまり、余り喋る必要性が無いのだ。
 確かに歩(あゆみ)は得意・・・というか生き甲斐のカラオケに女声で挑ませてもらったりしているが、それ以外には全く使っていない。
「あ、ちょっと待ってね」
 と、何やら生まれたばかりのこちらの乳房を睨んでいる。
「・・・な、何だよ」
 ちょっぴりドキドキする歩(あゆみ)。
「何も変わらない?」
 突然質問してきた。


第536回(2005年03月11日(金))
「何が?」
「うーん、やっぱり駄目なのか」
「だから何がだよ?」
「いやね、そのおっぱいにブラしてみようとしたんだけど駄目みたい」
「何?」
 一瞬聡(さとり)が何を言っているか分からなかったが、すぐに合点した。
「・・・つまりあれか。部分的に性転換はさせられるけども、部分的に女装はさせられないってことか」
「みたいね」
 確かにそうでないと困る。でないと「部分的だから」ということで「下半身だけスカート」とかされてしまうことになる。例え「その部分だけ性転換が済んでいて、その部分に異性の衣装を装着させよう」とするのも駄目らしいのだ。
 「胸だけ性転換して胸部分(だけ)ブラジャー装着」とかは出来ない訳だ。
 と、その瞬間だった。
「んあっ!」
 むくむくっ!という感覚しか分からなかった。
 正に「あっという間」に全身が女に変わってしまっていたらしい。
 気が付くとお尻の部分がぱっつんぱっつんになっているし、胸の部分は窮屈だけど他は華奢な身体なのでゆるゆるである。そして下腹部の喪失感・・・。
 でもって“むぎゅっ!”という感覚が胸を締め付ける。
「ふあっ!」


第537回(2005年03月12日(土))
「あ、やっぱりね」
 膝を打っている聡(さとり)。
「な、何がだよ・・・」
 軽く肩を動かす歩(あゆみ)。
 肩にひもが食い込む。間違いなくブラジャーだった。
「全身変えちゃえば部分的に女物を着せるのもオッケーみたい」
「・・・」
 どうにも実験台にばかりされているが、これも自分から言い出したようなものだ。
 何となくだが、もう全身女になってしまっているので、正座から身体の脇に膝から先をずらす。所謂(いわゆる)「女の子座り」とか「とんび座り」とか「ぺたん座り」とかいう奴である。

 ・・・だって楽なんだもん。

 聡(さとり)ももう見慣れているのか特に指摘したりもしない。
 歩(あゆみ)がこのスタイルで座ることになったのは、元はミニスカートが多い着替えさせられた制服で、パンツが見えないように座るにはこれしかなかった為である。
 つまり“必要に迫られて”のものだった。
 それにしても楽である。
 これを知ってからそれまでにも薄々感じていた「女は得だ」という見解に拍車が掛かったのだった。


第538回(2005年03月13日(日))
 男が床に座り込む場合は、膝を抱える「体育座り」か「正座」そして「あぐら」しかない。
 1時間やそこらならどれもどうにかなるのだが、楽さでは「女の子座り」には及ばない。しかも、制服のスカートが長い場合は脚をその中に隠して“ごまかす”ことが出来てしまう。
 高校ではお馴染みのミニスカートだが、一番全校での「体育館での正座」なんてものを強制される小学生時代には女子は長いスカートに脚を隠してみんなしびれないようにしていたのだ。
 ずるい。


第539回(2005年03月14日(月))
「ま、ということでとりあえず朝まで行こうか」
 とか何とか言っているが、これが別に許可を得てからやっている訳ではない。
 目の前にいて、しかも「実験」という大義名分がお互いの間で成立した瞬間にはもう“辻斬り”みたいな形でこちらを性転換&女装させてきているのである。
 まあ、これでも朝起きたら女子高生にされていたりしていた最初期の頃に比べれば随分マシになったのである。
 毒にも薬にもならないようなアルファベットのロゴが入ったTシャツと長ズボンが見る見る内に黒く染まっていく。
「おい、今度は何だよ?」
 やっと“変えられている間”にもまともに会話が出来る様になった。
 以前はあわあわ言ってしまっていたものだ。何しろ、自らの身体が異形なものに変質していくというのである。
 恐らく人類でもそうそう経験した者はいないであろう特異な体験である。動揺するのも当然だった。
 だが、三日とあけずに繰り返されてきたお陰で、漸く慣れて来たのだ。
「さー、それは見てのお楽しみ!」
 とても楽しそうな聡(さとり)。


第540回(2005年03月15日(火))
 以前、この能力に気が付いてかなり最初の頃、メイド姿にされたことがあった。
 それを思わせる黒ずくめの格好である。
「やっぱスカート?」
「うん」
 凄い会話だ。これが兄と妹の会話だろうか。
 とか何とか言っている内にズボンが融合してスカートの形状になる。
 脚がむき出しにされたスカート独特の感覚が襲ってくる。
 各種学校の制服姿が多かったこれまでの衣装遍歴から、実はその大半がスカート姿に変えられてきた歩(あゆみ)。確か一回だけストッキングの着用が義務付けられていたらしい制服があったが、それ以外はほぼ軒並みスカートだ。例外はこれまた最初のブルマ&体操服スタイルの時くらいだ。
 目をぱちくりされつつ、飴の様に「女物」へと変貌を遂げていく自らの衣服に視線を落としている歩(あゆみ)。抵抗の仕様が無いのだ。