おかしなふたり 連載1041〜1060

第1041回(2006年09月30日(土))
 同時にミニスカートを翻してドアのところまで吹っ飛んで行きドアノブを握る。
 歩(あゆみ)は可愛らしい少女姿で脳の中を引っ掻き回される様にフル回転させていた。
 まさかこんなことになるなんて思っていないから部屋に鍵なんか掛けていない。オープンな兄妹なのだ。てゆーか鍵使った覚えが殆ど無い。あ、この間ウェイトレスの制服姿で夜明かしした時には使ったか。 


第1042回(2006年10月01日(日))
 かと言ってここで施錠もマズイ。
 すぐに答えない理由も何だが、いきなり「ガチャン!」ではまるで拒否しているみたいではないか。
 そもそも気が付いているのに「わざわざ」鍵を閉めたという風にしか取れない。


第1043回(2006年10月02日(月))
 だからこうするしかない。
 ドアノブを必死に固定して「回せなくする」のである。
 これなら施錠されてないけどドアは開かなくなる。
 …客観的に観ると物凄くおかしな状況である。鍵も掛かっていないのにドアが開かないのだから。心霊現象か何かとしか思えない。
 だが、まさかこの格好を見られる訳にはいかないから歩(あゆみ)も必死である。


第1044回(2006年10日03日(火))
 このアホ聡(さとり)が!早く出やがれ!
 呼び出し音がしている画面を睨みながらドアノブを握り締め続けるミニスカートの美少女姿の歩(あゆみ)。
『あ、もしもしー!あゆみちゃ〜ん?』


第1045回(2006年10月04日(水))
 ドアの向こうから恭子の声がする。恭子もすっかり幼稚園時代を思い出したのか呼称が「あゆみちゃん」になっている。
 どうやら母といい、妹といい、幼馴染といい女性には「あゆみちゃん」と呼ばれる運命にあるみたいだ。


第1046回(2006年10月05日(木))
『ん?寝てるのかな?あゆみちゃん?』
 うう、申し訳ない。こっちもなんやかやで恭子ちゃんとはちゃんと話したいのに部屋に閉じこもって呼びかけられても無視なんて…。
 その時、電話が繋がった!


第1047回(2006年10月06日(金))
 繋がると同時に怒鳴ろうかと思ったが、すぐに思い留まる。
 駄目だ駄目だ。大声を出せばドアのそばで粘っているのがバレてしまう。
 こそこそとした声ででも何とかして意思を伝えるしかない。
 だが、携帯電話のディスプレイの表示を見て歩(あゆみ)は目の前が真っ暗になった。


第1048回(2006年10月07日(土))
 そこに出ていた表示はあらゆる想像を超えるものだったのだ。

『話し中』

 は…は…話中!?!
 何だこりゃ?
 この状況で一体どこの誰と話すんだ?


第1049回(2006年10月08日(日))
 これで八方塞(はっぽうふさがり)となった。
 下着一枚みたいなひらひらなミニスカート姿でドアノブと携帯電話を掴んで立ち尽くしている自分がなんだか馬鹿みたいだ。
 …どうしよう。こうなったら思い切って出て行こうか?
 場所を詐称して電話していた嫌疑は掛けられるけど、自分が謎の少女「あゆみ」であることにすれば、男の歩(あゆみ)の方の疑惑は避けられる。


第1050回(2006年10月09日(月))
 だがちょっと待てよ?
 そうなると、男の歩(あゆみ)はどこに消えたのか?
 確かにこっちの部屋に入っていったはずなのに煙のように消えて、少なくともこの家にはいなかったはずの謎の少女が出現しているというおかしなことになる。
 歩(あゆみ)は可愛らしい衣装の下の下着が汗だくになるのも厭わずに脂汗をだらだら流して考えた。


第1051回(2006年10月10日(火))
 …それにしても恭子ちゃん遅いなぁ…。
 聡(さとり)は自分の部屋で「女の子座り」しながらぽかーんと考えていた。
 何を話してるんだか分からないけど、お兄ちゃんが変身した時の「あゆみちゃん」とそんなに話すことってあるのかな?まだそれほど直接面識がある訳でも無いと思うけど…。
 実は聡(さとり)は、花嫁姿にされていた兄が電車内で運命的な出会いをしたことがあんまり脳内で有機的に結びついていなかった。


第1052回(2006年10月11日(水))

 ま、お兄ちゃんにはまたいきなり女の子にして悪い事したけど、電話で連絡取る訳にもいかないししょーが無いよね。
 相変わらず余り罪の意識を感じていない妹であった。
 可愛い服も着せちゃったけど、「声だけ女の子」みたいな中途半端な状態よりずっといいと思うし。
 パーツのみを性転換させることが出来ることは一応確かめられてはいた。「部分女装」はできないが、「部分性転換」なら出来るのである。


第1053回(2006年10月12日(木))
 …それにしても長いな。
 聡(さとり)は考え込んでいた。
 女の子同士の話って長いもんだけど、何しろ物理的な距離が数メートルも無い。「不測の事態」が起こらないとも限らない。
 でも話している途中となると割り込む訳にはいかないしなあ…。
 小ぶりな胸を抱きかかえる様に腕組みをして考え込む聡(さとり)。
 自主的に部屋を出たってことはあたしには聞かれたくない話ってことだしなあ。
 そうだ、お兄ちゃんに電話してみたら話し中かどうか位は分かるよね。


第1054回(2006年10月13日(金))
 という訳で携帯電話のメニューから「おにいちゃん」という項目を探し出してダイヤルする聡(さとり)。
 廊下の声に聞き耳を立てる様な野暮な事はしない。やっぱ聴かれたくないということで部屋を出た人の話を聴いちゃいけないよね。
 何度か呼び出し音が鳴るが、意外すぎる結果が出た。

『話し中』


第1055回(2006年10月14日(土))
 聡(さとり)はこの時点では知らなかった。
 携帯電話に限らず、電話というのはお互いに全く同じタイミングでお互いに向けて電話をしてしまうと、『話し中』判定になってしまうのである。


第1056回(2006年10月15日(日))
 ありゃ?まだお兄ちゃんと恭子ちゃんは話し中なのかな?
 まさかお兄ちゃんが恭子ちゃんとの電話が終わって直(すぐ)に別の人に女の子の声のまま電話するとも思えないし…。
 よく分からないなあ?
 自分で言うのもナンだけど今この状況で電話するとしたらあたし(聡(さとり))しかいないと思うんだけど…。
 実は正にそれをやっているのだが、タイミングが合っていないのである。
 当然ながらそれに気付かずに何度も小首をかしげている聡(さとり)。可愛い。


第1057回(2006年10月16日(月))
 その時だった。

 ドンドン! 

 思いもかけない方向から重い音が響いてきた。
 びっくりしてそちらの方向…窓の方…を見る。
「…っ!?」
 そこには可愛らしい服を着たお兄ちゃん…が女の子になった姿…がいたのだ。


第1058回(2006年10月17日(火))
 窓の方に飛びつく聡(さとり)。大急ぎで開ける。
「ど、どうしたのお兄ちゃん!?」
「どうしたもこうしたもあるか!何で電話出ないんだよ!」
 可愛い声でわめく歩(あゆみ)。
 流石に怒っている。


第1059回(2006年10月18日(水))
 実はこの二つの子供部屋は屋根づたいに窓から出入り出来るのである。
 流石に高校生にもなるとそんなこともしないのだが、小学生の頃とかは当たり前にやっていた。
 下着が見えるのも厭わずに、短いスカートで窓枠を乗り越えて入ってくる。
「うっそお!あたし電話したよ!お兄ちゃんに!」
「話し中だったぞ!」


第1060回(2006年10月19日(木))
 歩(あゆみ)は頭の中をフル回転させた。
「とにかくいいから早く戻せって!」
「あ、うん」
 流石にこの能天気な妹でも、兄の悲壮な覚悟を悟った。
 何しろ屋根づたいに移動するというのは外から丸見えなのである。
 閑静な住宅街なのでそれほど人目に付く訳では無いが、通行人がいたらモロに目撃されることになる。
 そのリスクを省みず直接聡(さとり)の部屋にやってきたのだからそりゃもう必死だ。
 その時だった!