おかしなふたり 連載1061〜1080

第1061回(2006年10月20日(金))
「さっちゃーん」
 窓の外から恭子の声がする。
 歩(あゆみ)の部屋へのアプローチを諦めて引き返してきたのだ!
「「…っ!?!?」」
 顔を見合わせて動揺する美少女二人…本当は兄妹だが。
 ほんの一瞬だけ考えたがすぐに窓の外に飛び出すミニスカート姿の歩(あゆみ)。
 ドアが開いたのが同時だった。


第1062回(2006年10月21日(土))
「…さっちゃん?」
 窓の下でずっこけている聡(さとり)が必死こいて体制を立て直した正にその瞬間だった。
 さっきから自由に出入りしている恭子はさっさと入ってくるので正に間一髪だった。
「どしたの?」
「あ…いや…ちょっと寒くてね」
 無理のありすぎる言い訳である。


第1063回(2006年10月22日(日))
「ん〜、なんかあゆみちゃん寝てるみたいで起きてこないんだよね」
 とてとてやって来てぺたんと座り込む恭子。
「で?どうだったの?女の子の方のあゆみちゃん」
 話がややこしい。


第1064回(2006年10月23日(月))
「うん、お陰で話せたよ」
「何だって?」
「まあ、その内会おうってことで」
「歌ってる時以外は内気な子だからね〜。電話で話すの大変じゃなかった?」
「ん〜まーそーだけど」
 母に用意してもらってあるジュースに口を付ける聡(さとり)。


第1065回(2006年10月24日(火))
「今度さあ、お兄ちゃんとさっちゃんとさあ」
 言うまでも無いが「さっちゃん」とは聡(さとり)の愛称で、「お兄ちゃん」とは聡(さとり)に対して使う歩(あゆみ)の通称である。
「うんうん」
「女の子のあゆみちゃんと一緒にカラオケでも行こうよ」
 聡(さとり)はジュースを噴出しそうになった。


第1066回(2006年10月25日(水))
「…?どしたの?」
「あ、いや何でもない。ちょっと思い出し笑い」
 言い訳が無茶苦茶すぎだが、勢いで押し切る。
 女の子の“あゆみちゃん”とお兄ちゃんは同一人物なのだからそれは不可能だ。セーラームーンとうさぎちゃんが同時に出て来れないのと一緒だ。
 …聡(さとり)はウルトラマン世代ではないのでこういう比喩になるのだった。


第1067回(2006年10月26日(木))
「それにしても歩(あゆみ)ちゃんってどこに行ったのかなあ」
「そーねー」
 聡(さとり)は見た目には普段と全く変わらなかったが、心の中では大いに冷や汗をかいていた。
 何しろお兄ちゃんは自分が性転換&女装させた状態で窓の外にへばりついているのである。


イラスト:おおゆきさん

 …このまま戻しちゃっていいのかな?


第1068回(2006年10月27日(金))
 あられもないミニスカートで窓の外に座り込んでいる歩(あゆみ)。
 歩(あゆみ)はミニスカートを履いている時の見えにくい座り方なんて心得ていない。
 だからしゃがみこんでお尻を手で押さえたりしているが、屋根の上なので確度を調節すれば下着なんか見えてしまうはずだ。
 …危ないところだった。


第1069回(2006年10月28日(土))
 歩(あゆみ)はその美少女の姿で脳をフル回転させる。
 もしも恭子ちゃんが窓を開けて外を見ようとしたら聡(さとり)が身体を張って止めてくれる筈(はず)だ。それは間違いない。
 しかし、だからと言って何時(いつ)までもこんな窓の下の屋根でしゃがみこんでいていい訳が無い。
 さっき「すぐに戻せ!」と畳み掛けたけども、それは室内で誰にも見られていない状態だから言えたことであって、この状態で戻されたのでは「変身途中」をまた目撃されてしまう。それは良くない。


第1070回(2006年10月29日(日))
 とにかく、こんなみっともない格好を誰に見られるかも分からない状態にしておく訳には行かない。
 …ということはやっぱり自分の部屋に戻るしかないのだ。
 頭の中に二階の見取り図を描いてみる。
 さっきは廊下で電話していた恭子ちゃんがこちらの部屋に向かってきた。だからある意味防ぎようが無かった。


第1071回(2006年10月30日(月))
 だが、今は図らずも聡(さとり)の「監視下」に置かれている様な格好になっている。
 …ということは今は逆に一番安全な状況であると逆説的に言えない事も無い。
 こちらを男の姿に戻さない限り恭子を歩(あゆみ)の部屋に寄越すことは無いだろうし、逆に寄越すとしたらこちらを戻してからになるだろう。


第1072回(2006年10月31日(火))
 …つまり、ここまで考えると「一番安全なのは自分の部屋」であるということになる。
 そして、一番危険なのは今のこの状態…屋根の上で窓の外にへばりついている状態…ということになる。何しろ近所から丸見えである。姿が見えるのは勿論、下手すりゃスカートの中まで丸見えだ。
 …男である自分がそこまで気にするものなのかイマイチ分からないが、まあ見えない方がいいだろう。多分。
 そんな訳で歩(あゆみ)はあられもないミニスカートで自分の部屋の窓めがけてすごすごと引き返し始めた。


第1073回(2006年11月01日(水))
 万が一にも見つかるわけには行かないので立ち上がらない様に聡(さとり)の部屋の窓を通り抜け、屋根の上を伝って自分の部屋に。
 こんなところを親に見つかったら偉いことだ。
 …でも冷静に考えたら流石にこの状態だと今の自分は聡(さとり)だと親は思うわな。
 髪の毛こそ長くなっているが、この細い体型に可愛らしい制服風の出で立ち。


第1074回(2006年11月02日(木))
 一応自分の部屋の中を窓から覗き込み、無人であることを確認してから徐(おもむろ)に窓枠を乗り越える。
 しっかし、本当に「あられもない」格好とはこのことか。
 自分が同年代の女の子が脚が殆ど完全に露出しているスカートで窓枠を乗り越えていたら…身を乗り出して見てしまうな。
 部屋に飛び込むと大急ぎでドアに取り付いて滅多に使わない鍵を閉める。
 恭子ちゃんが聡(さとり)の部屋にいる今なら鍵を閉めても角が立たないだろう。


第1075回(2006年11月03日(金))
 ふう、と息をつく美少女姿の歩(あゆみ)。
 これでとりあえず安心だ。
 窓側から恭子ちゃんがアプローチしてくる心配は皆無。つまり入り口を固めていれば大丈夫ということだ。
 …なんか篭城戦を仕掛ける戦国武将みたいな気分だ。


第1076回(2006年11月04日(土))
 さあここで考えよう。
 とにかく、今女になっているメリットは皆無だ。
 何しろ「女の子の“あゆみ”」はここにいてはいけない存在である。
 さっきの話の流れからすぐにまた“あゆみ”相手に電話が掛かることは無い。つまり声を出すことも無いし、実際に会うことも無い。
 つまり「すぐに戻せ」ということだ。
 …しかし、待てど暮らせど身体が元に戻っていく気配が無い。


第1077回(2006年11月05日(日))
 考えられる可能性としては、恭子ちゃんとの会話が進んでこちらに意識を集中できないということがある。
 聡(さとり)はこの能力を歩(あゆみ)に比べると非常に使いこなしているので、簡単に…というか無意識にすら…発動させてしまうほどだが、いざ使おうとするとそれなりの「集中力」が必要となるのである。


第1078回(2006年11月06日(月))
 歩(あゆみ)はまず入り口のドアにしっかり鍵が掛かっていることを確認する。

 がちゃがちゃ!

 …よし。
 次にカーテンを閉める。
 まさかとは思うが、窓側から来られた時の対策である。


第1079回(2006年11月07日(火))
 でもって、次に携帯電話を手に取る。
 今は声は女になっているけど声だけで聡(さとり)にアクセス出来る。
 恭子ちゃんと話している最中だろうけど、そこに穏便に割り込めるにはこれしかない。
 万が一のことも考えてベッドに入り込んで上からタオルケットをかぶる。
 これでマスターキー(我が家にそんなもんあるとは思えないけど)使っていきなり踏み込まれても一応大丈夫だ。


第1080回(2006年11月08日(水))
 それにしても…ミニスカートでベッドに座り込むと、スカートの中の下着が直接布団に接触する。
 そりゃ風呂上りでパジャマを着る前の半裸みたいな状態でならばともかく、きちんと服を着ている状態でこれほど無防備な形ってのは本当に女の服ってのは難儀だ。
 歩(あゆみ)はむずむずした。