おかしなふたり 連載1121〜1140

第1121回(2006年12月19日(火))
 その「主」が今目の前で電話を聞いている妹なのは間違いない。
 あいつなりに考えてくれているのだろう。…トラブルにしかなった覚えは無いが。
 「電話を替わる」からにはこちらの声を女の子の「あゆみ」にする必要がある。ということはつまり…だ。
 その瞬間だった。


第1122回(2006年12月20日(水))
 服の塊(かたまり)がばふっ!と爆発するみたいなショックだった。
 城嶋兄妹が手にしたこの変身能力は部分的に徐々に変わっていくことも、全身を一気に変えてしまうことも両方ある。
 その時に応じて切り替えることが出来るらしい。
 何しろこちとら可愛い(?)妹を男にする趣味は無いので数えるほどしかやっていないが、あちらは経験豊富だ。


第1123回(2006年12月21日(木))
 身体が異変をキャッチする。
 いい加減に引っ掛けていた布団がベッドの下にずり落ちそうになった。
 思わず正座の状態から腰を浮かし、落ちていく布団を取ろうと身を乗り出した。
 指先でそれを掴む事は出来たが、同時に経験したことも無い様な奇妙奇天烈な感触が背中と、そしてお尻を覆った。
 …お尻?


1124回(2006年12月22日(金))
「…っ!?!?」
 状況を把握するのに、性転換&女装に慣れっこになっていた歩(あゆみ)も数瞬を要した。
 聡(さとり)の趣味なのか、腰までなびくその髪が背中の柔肌を直接撫で、毛先の刺激がちくちくとお尻を弄(なぶ)る。
 これって…まさか全裸!?
 一瞬だけ視線を下げ、すぐに空中に泳がせる。
 ブラみたいな肩紐の感触に重い乳房が抱きとめられている。
 こ、これは…水着だあっ!

イラスト おおゆきさん

第1125回(2006年12月23日(土))
『あ、もしもーし』
「ええ?はいっ!?」
 甲高い(当者比)声が素っ頓狂に響いた。
 押し当てていた携帯電話からの恭子の声である。


第1126回(2006年12月24日(日))
「え?…あ、ああ…うん」
 頭の中は様々な感慨が渦を巻いていた。
 全身に当たる空気の振動が直接皮膚を刺激し、髪の毛が直接肌に触れる。
 水着は所謂(いわゆる)「セパレート」という奴で胸を押さえる部分とビキニパンツの部分に分かれたものだ…が、この覆っている部分の少なさは異常だ。
 そもそも何なんだこのド派手な柄は!


第1127回(2006年12月25日(月))
 水飛沫(みずしぶき)を意識したみたいなブルーはいいとしても、胸部分一杯に描かれた椰子の木みたいな模様。
 これって…まるで漫画週刊誌の巻頭グラビアで、グラビアアイドルが着ているみたいな実用性がどの程度あるのか分からん派手な水着じゃないか!
 水着の薄い生地を通して伝わる皮膚への刺激は却(かえ)って妙な感触だった。
 さ、聡(さとり)の奴ぅ…電話を替われっていうなら声だけ女にするって手もあるのに全身変えた上にこの格好…。


第1128回(2006年12月26日(火))
 思わず自分の胸を見てしまう歩(あゆみ)。
 これまでで最大の露出度を誇るこの衣装に思わず自分でも視線が釘付けだ。
 …これって…おっぱいの半分くらいしか隠してないよな…。深い深い胸の谷間が影を作っている。


第1129回(2006年12月27日(水))
『あゆみちゃん?どうした?』
 急に声を掛けられてびくっ!とする。
「あわっ!…い、いや何でも…」
 い、いかん。これはムチャクチャ動揺している声だ…。
 声を出してみて間違いなく女の声だと分かった。
 自分の地声がこうもコロコロ変わるってのは本当に落ち着かない。


第1130回(2006年12月28日(木))
『何だかゴメンね。隠してたの暴いたみたいな感じになっちゃって』
「そう…だね」
 もう心ここにあらずである。
 余りにもいろんなことが一度に襲い掛かり続けて何が何だか分からなくなっている。
 ちょっと身体を動かすだけで胸同士がむぎゅむぎゅする…。
 頭がかああっとして来た。

*本年の更新はここまでです。何だかえらい場面で引いてしまいました(爆)。
 来年2007年の更新は1月2日(金)より再開します。来年もよろしくお願いいたします!


第1131回(2007年01月02日(火))
『ん?どうした?今顔を真っ赤にして胸がドキドキしてるでしょ?』
 全部当たっているけど原因は全く別だ。
「うんまあ…」
 ここってどう反応すべきなんだろう?結構プライベートなところに踏み込まれているから怒ってもいい場面なんじゃないだろうか?


第1132回(2007年01月03日(水))
 追い込まれているととにかく高速で脳は回転する。
 自分をどういうキャラで作っていいのかまず分かってないし、そもそも別人格を演じる演技力なんてありはしない。こちとら姿かたち…性別にまつわる外見…が変わっちゃってるだけだ。
 いや、ここはこれで行こう!
 グラビアアイドルみたいな水着姿で歩(あゆみ)は決心した!


第1133回(2007年01月04日(木))
『あの…長沢さん…』
 遂に「あゆみ」の人格で喋ってみた歩(あゆみ)。
 それだけでおっきなおっぱいを突き破って心臓が飛び出しそうにドキドキする。なんだかやってはいけないことをやっている気分だ。
 学芸会とかで女装した経験は無いけど、それよりもずっとヤバイ感じである。
 それにしても久しぶりに恭子ちゃんの苗字を読んだ。


第1134回(2007年01月05日(金))
『ありゃ?あたしって苗字教えたっけ』
 …ヤバイ。
「いやその…」
『あ、そうだ。あゆみちゃんに聞いたんだね。ひゅーひゅー』
 完全に墓穴を掘ってしまっている。


第1135回(2007年01月06日(土))
「いや、そうじゃなくてね…」
 何とかしてこっちが“怒っている”ことを伝えなくてはならない。
 いや、純粋に怒っているんではないけどとりあえずそういうことにしてどうにか恭子ちゃんがこれ以上この件に関して深入りし無い様にしないといけないのだ。
「その…そういうのは困るんだよ…うん」
 どっちともつかない口調だが内気な女の子が喋っている様に聞こえない事も無い。


第1136回(2007年01月07日(日))
『あれ…ひょっとして秘密だった?』
 少しだけ神妙な口調になる恭子。
「…うん」
 はっきりと声に出してしまうのは冷たい気もしたが、ここは心を鬼にする。


第1137回(2007年01月08日(月))
「その…」
 さあ困った。いざ怒らなければならないと言ったって咄嗟にそんな言葉が出てくる筈(はず)が無い。
 それに、恭子ちゃんとケンカなんてしたくないに決まっている。
 それは「あゆみ」の時もそうなんだろうか?
 いや、もしかしたら「あゆみ」とは「ケンカ別れ」という形にした方がいいのかも知れない。


第1138回(2007年01月09日(火))
 …そうか、そういう手もあったのか。
 これまでの人生で考えた事も無い様な乱暴な手段を思いついた歩(あゆみ)だった。


第1139回(2007年01月10日(水))
『そっか…ごめんね』
 恭子の声が神妙になる。
 うう…心が痛い。
『分かったわ。安心して』
 いきなり事態が進展し始めたのか?


第1140回(2007年01月11日(木))
『絶対に誰にも言わないから安心して!ね!』
 童顔なのにセクシーな水着姿の歩(あゆみ)は思い切りずっこけた。
 前のめりにずっこけたので、その大きな胸がまたむにゅっ!となる。
 あうあうあ〜。