おかしなふたり 連載1421〜1440

第1421回(2008年01月03日(木))
 …そうか…事情が飲み込めてきた。
 つまり「人ごみでもバレない変身」とはこのことだったのだ。

第1422回(2008年01月04日(金))
 そう、レオタードみたいに下着めいた薄い材質の衣類ならば、「服の下」に着せても大丈夫であろう

、ということで下着だけをレオタードにしてみせたのである!


第1423回(2008年01月05日(土))
 ただし、あいつにも計算違いがあった。それは「頭隠して尻隠さず」ならぬ、材質の大きさを考慮し
ていなかったことである。

第1424回(2008年01月06日(日))
 その為に細い身体のTシャツからカラフルなパステル調の生地が飛び出しているのが余りにも異様である。この様な衣類なんぞこの世に存在はすまい。
 レオタードを着込んだ上に普通の長ズボンとTシャツを着た形である。
 歩(あゆみ)は下半身をゆさゆさと動かしてみた。

 …下半身はパンツ型に脚が全部むき出しになる形になっているようだ。
 長ズボンの下の脚は全て肌が露出している。


第1425回(2008年01月07日(月))
 ま、長ズボンの下はそりゃ男の時にだって何か重ねて履いたりはしないんだが、やっぱりゆったりしていたトランクス型のパンツがブリーフを飛び越してぴっちりと下腹部に張り付くレオタードにまでなっているので感触の違和感はかなりのものだ。

 歩(あゆみ)は変わらず乳房が押し上げている胸のポケットに入っている携帯電話に手を伸ばした。
 同時にそれが振動を始める。


第1426回(2008年01月08日(火))
『あ、もしもし歩(あゆみ)ちゃん?』
 もう歩(あゆみ)は怒らないことにした。
 最近ちょっとつんつん妹に当たりすぎた。うん。
 小学校の頃にはあんなに仲がよかったではないか…当時から随分悪戯(いたずら)された様な気がしないこともないが…まあいい。
 それに間違いってこともある。
「聡(さとり)さあ」
 相変わらず可愛らしい声が自分の喉から漏れてきて一瞬ぎょっとなる。


第1427回(2008年01月09日(水))
『…ん?戻ってない?』
「ああ、まだだね」
 努めて平静を装って言う歩(あゆみ)。
『おかしいなあ。ちゃんと戻る様にイメージしたんだけどなあ…』
「本当か?」
『そりゃ本当だよ!そんなところまでウソつかないってば』
「そうか…」
 一応信じることにしよう。


第1428回(2008年01月10日(木))
「じゃあ、ちょっと質問いいか?」
『あの…あゆみちゃん怒ってる?』
 珍しく神妙な声を出している妹。
「いや、別に。わざとやったわけじゃないんだから仕方ないよ」
『あの…ごめんね』
 努めて静かに喋っていたことが「シャレにならないほど激怒している」風に思わせてしまったらしい


 ちょっと可哀想な気もするが仕方が無い。自業自得だ。


第1429回(2008年01月11日(金))
「とりあえず、どんな風に変えようとした?」
『いや別に…普通に身体を男の子に戻そうとしただけだよ』
 …神妙な声から嘘ではなさそうだ。
「そうか…じゃあ、まだ遠隔操作は練習が必要みたいだな」
『どゆこと?…あゆみちゃん今どんな格好してんの?』
 やっと聡(さとり)にも事態がのみこめてきたらしい。


第1430回(2008年01月12日(土))
「写真撮って送りつけてやりたいけど、証拠残してもつまらんからな。服の中身だけがレオタードになってるよ」
 歩(あゆみ)は正直に言った。
『えええっ!マジでぇ!?』
 女子高生みたいな声で驚く聡(さとり)。女子高生だが。
「何か心当たりは?」


第1431回(2008年01月13日(日))
『…ゴメン。ある』
 やっぱりか。
「大方『こうなったら面白いだろうなあ』とか思ったんだろ?」
『…うん』
「その後、ちゃんと戻そうとしたけど上手く行かなかったと」
『…みたい』
 腹立たしい事態ではあるが、これは貴重な経験則になった。
 まず、聡(さとり)の「遠隔操作」はまだ完璧には程遠いということ。それと、「服の中だけ変身」というのは一応理論上は可能であるということだ。


第1432回(2008年01月14日(月))
「聡(さとり)、よく聞いてくれ」
『うん』
 歩(あゆみ)は先ほどの説明をした。
「つまり、これはいい機会だよ。やっぱり遠隔操作は完全じゃないらしい。今はちょうど公衆トイレの中で、誰にも見られる心配が無い。だから少し練習してみよう」
『え?いいの!?』
 素っ頓狂な声を出す聡(さとり)。
 何しろ「兄公認」で変身&女装させられる機会なんて滅多に無いからだ。


第1433回(2008年01月15日(火))
「ああ、構わん」
 実際問題こういうことでもない限りこんな実験を行なう機会は無いだろう。
 物理的に離れている必要があるので、どちらかが遠方である必要がある。
 本来ならば「目撃される危険性」を考えて、歩(あゆみ)が自宅に残り、聡(さとり)が外部から操作を行なった方がいいのだろうが、今は仕方が無い。


第1434回(2008年01月16日(水))
「とりあえずレオタード戻してくれ」
『ええっ!?レオタード着てるの!?』
 ウェディングドレスの時と同じ反応だ。こりゃ本格的にいかんな。
「ああそうだ。ってかお前どういう風にイメージしたんだよ?戻そうとしたんだよな」
『えーと…戻そうとしたのはさっき』
「レオタードの具体的なイメージをしたことは?」


第1435回(2008年01月17日(木))
『えと…その前にめぐさんからアイデアを聞いてはいたの。コートか何かを羽織った状態で中だけ変化させられれば人ごみの中でも無理が無いんじゃないかって』
 ははあ、状況が見えてきた。
「つまり、それで服の中身だけ変化させようとしたんだな」


第1436回(2008年01月18日(金))
『いや、変化させようとまではしてないよ。もしもそれをやるんならレオタードとか水着とか身体にぴっちりひっついた下着みたいなのなら、服の中だけで変化出来るかな〜と思っただけ』
「ふん」
『その後で戻そうとしたら…という感じ』
 恐らくその「妄想」段階でこちらに変化が飛んできたのだろう。


第1437回(2008年01月19日(土))
「大体分かった。こりゃ日常生活でなるべく妄想は抑えてもらう必要がありそうだな」
『嘘ぉ!無理だよそんなの!』
「無理でもやってもらわんとこのままだと教室でいきなりレオタードになっちまうよ」
 シャレにならない。

第1438回(2008年01月20日(日))
『でもおかしいなぁ…』
「何だよ」
『あたし今まで授業中とかもかなり色々考えてたよ。今夜はお兄ちゃんに何を着せようかなあとか』
 勉強しろ。
『でも、発動したのって今回含めて2回だけだよね?』
「まあ…」
 言われてみればその通りである。


第1439回(2008年01月21日(月))
『何か暴発する条件があるのかな?』
「可能性はあるな…」
 だが、考えていても仕方が無い。
「とりあえず戻すんだ。今こっちは男ものの下にレオタードを着てる。Tシャツから思いっきりはみ出して手首まで覆ってる妙な状況だ」
『うう…お兄ちゃん写メ撮れない?』
「こんな珍妙な格好を撮ってどうするんだよ。帰ってから再現しろや」
 また妙な約束をしてしまった…。


第1440回(2008年01月22日(火))
 このご都合主義の塊みたいな能力はある程度「道具」なども生成してくれるのだ。
 この間ウェディングドレスを着せられた時もカバンがヴーケに変わったりしていた。何よりあれだけの量の生地が空中から沸いて出ているのだ。質量保存法則だか何だか知らんけどその辺りの法則を完全に無視している。
 なので今夜はきっとレオタードを着せられるのみならず、ボールだのリボンだのまで作り出されて「新体操ごっこ」をやらされる破目になるだろう。

  



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