おかしなふたり 連載1401〜1420

第1401回(2007年12月14日(金))
「聴こうか。どうすんだよ。俺はどこに行けばいいんだ?」
『お兄ちゃんって今普通の格好なんでしょ?男の子の』
「女装で外出する趣味は無いからな」
『って今は女の子じゃない』
「いいから!」
『ま、ともかく今お兄ちゃんの身体を元に戻しても見た目はそんなに変わらないと思うのよ』
「この腰まである長い髪もか?」
『髪の毛は仕方が無いけど、服は質素な男の子の服なんでしょ?女の子のブレザーが見る見る学ランに変わっちゃうんなら目立つけど、服の中身の身体だけ戻るってんなら至近距離で目撃されない限り大丈夫だと思うよ』


第1402回(2007年12月15日(土))
 歩(あゆみ)は少し考えた。
 確かに上半身も下半身もしっかり男物を着込んでいる。
 今この瞬間身体だけ元に戻ったとしても違和感はそれほどは無いだろう。
 少なくともこの間経験した「ごく普通の男子学生の制服が純白のウェディングドレスになってしまう」のに比べれば遥かにビジュアルインパクトは少ない。
「よし分かった。じゃあ人気の無いところに行くから元に戻すようによろしくだ」
『あいはい。でもお兄ちゃん、一応報告頂戴ね』
「報告?」


第1403回(2007年12月16日(日))
『うん。何しろ「遠隔操作はしない」って紳士協定結んだじゃん』
「ああ」
『だからあんまりやったこと無いのよ。少なくとも戻す方に関してはね。だから変身終わったら連絡を頂戴。それからウチに帰って来ればいいから』
「分かった。じゃあ…5分後にスタートしてくれ」
『…5分後だね。了解。元に戻す前には電話しないからね』
「よし、頼むぞ」
『あいあいさー!』
 訳の分からん楽しそうな声と共に電話は切れた。
 何だかんだで結局向こうに主導権を握られてる気がする…。
 ともあれ方針は決まった。


第1404回(2007年12月17日(月))
 タイミングのいいことに目の前で遮断機が上がり始める。
 何しろ少々都心からは外れるが、渋谷まで電車で20分の位置にあるベッドタウンだ。下手すりゃ5分と開けずに電車がひっきりなしに通るのである。
 聡(さとり)には「5分後」とは言ったが、悪いが余り信用出来ない。

 いや、この期に及んで衆人環視の状態で変身させることが分かっていて意図的に恥ずかしい格好をさせるほど悪い性格の妹じゃない。
 それは分かるんだが、事故とか不可抗力ってこともある。


第1405回(2007年12月18日(火))
 この間の「電車の中でウェディングドレス」騒動にしたってあいつは遠隔操作で変身させる気なんて全く無かったのだ。
 だから、意図せざる変身に襲われることは充分考えられる。
 歩(あゆみ)が変身開始まで「5分」という時間を設定したのは理由がある。
 妹を信用しないみたいで悪いんだが、「万が一」のことを考えて公衆トイレに駆け込んでおこうというハラなのだ。


第1406回(2007年12月19日(水))

 遮断機が上がりきったところで歩(あゆみ)は走った!
 ここからまっすぐ自宅に帰る道からは少々外れるが、公園があったはずだ。小さい頃に恭子ちゃんたちとも随分遊んだあそこである。
 こういう日に限ってうだるようないい天気である。
 漆黒の黒髪が熱を持ってアイロンを背中に押し付けたみたいになっている。
 首の後ろの部分なんて蒸し風呂状態だ。
 うう、髪の長いモデルさんたちは常にこの状態なんだろうか?


第1407回(2007年12月20日(木))
 歩(あゆみ)達の世代…21世紀に入ってから高校に入学した頃の世代…にとってはもう「携帯電話」が当たり前の存在となっている。
 なので、歩(あゆみ)も聡(さとり)も「時計」そのものを単体で持ち歩くことが無い。時間を確認する時には常に携帯電話の液晶ディスプレイを見ることになる。
 だが、これは咄嗟に時間を確認するのには甚(はなは)だ向いていない。
 とにかく急ぐ事を優先しなくてはならない局面なので、歩(あゆみ)は一切時間を確認せずに走り続けた。


第1408回(2007年12月21日(金))
 そもそも時間を確認したところでいい事は何も無い。
 コントローラーはこちらではないのだ。

 果たしていつもの公衆トイレが見えてきた。
 入り口で誰ともすれ違うことなく迷わず男子トイレに飛び込む。

 平日の昼間であるが、目撃者はいなかった様だ。


第1409回(2007年12月22日(土))
 ふう、と思わず息をつく。
 夏の真っ盛りの公衆トイレは正直余り居心地のいいものではない。
 きちんと毎日掃除がなされている形跡はあるのだが、それでも落としきれないアンモニアの匂いが立ち込めている。
 それが湿気の多い日本の夏の気候で浮き上がってくるようである。

第1410回(2007年12月23日(日))
 さて、そろそろ時間である。
 あいつは「衆人環視の中でも大丈夫」な変身の戻し方をやってくれるって話だった。
 その時だった!


第1411回(2007年12月24日(月))
 身体の内側に違和感を感じる。
 …??
 何だこれは。
 余り感じたことの無い違和感だった。
 変身そのものは何度もされているし、女物から女物への服装の転換も経験がある。
 とはいえ、細かい感覚の違いをいちいち覚えているほどベテランでもない。
 これは…なんだ?


第1412回(2007年12月25日(火))
 身体の内側に違和感を感じる。
 いや、『身体』というのは正確ではない。
 「服」だ「服」の内側である。
 つまり、このシャツと肌の間である。
 言葉で説明しても分かりにくいかも知れないが、何しろ感覚の話なのでそういうことになる。
「うわあっ!!」


第1413回(2007年12月26日(水))
 全身を撫で回されるみたいな感覚が走った。
 パンツの感覚が…おかしい?
 歩(あゆみ)は全身少女の肉体になってはいたが、元に戻った時のこと及び外出時のことを考えて下

着まで全部男物にしている。
 歩(あゆみ)は密閉空間であることをいいことにシャツの首の部分を引っ張って身体を覗き込んだ。
「…!?!??」


第1414回(2007年12月27日(木))
 そこには…妹の趣味らしい形のいい乳房がある。
 うん。
 …これは自分のだからまあいいだろう。
 この程度は役得だよ。
 とか何とか言っている内に物凄い変化が襲ってきた。
「うわわわわっ!!」
 凄い勢いで下のほうから何かがせりあがってきたのだ!


第1415回(2007年12月28日(金))
 その「物体」のせり上がりと同時にお尻の周囲、そしてウェストの辺りまでをぴっちりと何かが包み込んでいく。
「ん…!?ああっ!」
 きゅっ!と上方向に引っ張られるように下腹部から胴回り、そして胸までを包み込んでいく。
 胸の谷間もそのカラフルな原色に包み込まれると同時にシャツの手を思いっきり離してしまった。
 全身に感じる変化は留まるところを知らず、そのまま鎖骨部分、肩にまで及ぶ。
「な、何だぁ!?」


第1416回(2007年12月29日(土))
 こんな無茶をやる…というか現実問題出来るのは我が妹しかいないのは分かりきっているんだが、この変化が何がどうなっているのかわからないのだ。
 とか何とか驚いている内に肩の部分まで覆い尽くした「それ」はTシャツの袖からはみ出て更にぐんぐん伸び続けているのだ!
「わわっ!」
 その細く可愛らしい腕がパステル調のカラフルな色に包まれていく。


第1417回(2007年12月30日(日))

 手首まで達した時にやっとそれは止まった。
「…」
 目をパチクリさせている美少女。
 勿論歩(あゆみ)である。
 驚きっぱなしだったが、ここに来て遂に自体が飲み込めた。
「…野郎…」


第1418回(2007年12月31日(月))
 身体を見下ろす歩(あゆみ)。
 全身は外見上全く変化が無い。
 ただ一点、Tシャツの袖から思いっきり覗いた原色の「それ」以外は。

 そう、聡(さとり)はまた服を変化させたのだ。
 今度は「全身」ではなくて、「下着」などの中身だけをだ!
 そう、歩(あゆみ)が履いていた男性用のトランクスは今や全身にぴっちりとまとわりつくレオタードになっていたのだ!



第1419回(2008年01月01日(火))
 歩(あゆみ)は混乱していた。
 これはどういうことだろうか?
 実はこの「変身」は今までのそれとはかなり事情が違うのである。

第1420回(2008年01月02日(水))
 歩(あゆみ)シャツの首元を引っ張っていた手を離す。
 ひゅっとシャツが元の状態に戻り、外見は単なる男装した少女に戻る。
 …ただ一点、半そでから大きくはみ出して手首までを覆っているレオタードを除いては。