おかしなふたり 連載1541〜1560

第1541回(2008年05月02日(金))
「なんか友達のお姉ちゃんの知り合いから貰ったの」
 偉く遠い関係だが、成立しているんならいいんだろう。
「はあ…」
 こいつのバイタリティには呆れるばかりである。
「それにしても何だよね…その…」
「何だよ」


第1542回(2008年05月03日(土))
「やっぱ折角女の子になってるんだからもうちょっとこう…動きがカタいというかさあ…」
 何だか評論家みたいなことを言い出す妹。…今は「弟」になるのか。
「…仕草まで女になりきれとか言う気か?」
「いや、別にそうは言わないけど…きょーこちゃんにも認知されちゃったし」
「そりゃ主にお前のせいだろ」


第1543回(2008年05月04日(日))
「そこだよそこ!」
「…?」
 きょとん、とする美少女歩(あゆみ)。本人は気付いて無いが可愛い。
「その可愛い格好で『俺』とかだーめ」
「…そんなこと言ったらお前だってそうじゃないか」
「そうなのよね〜…じゃなくてそうなんだよねえ…」
 すぐに言い直しをしつつ腕組みをするファッションモデルくん。


第1544回(2008年05月05日(月))
「…そうだ」
 またよからぬことを思いついた風の聡(さとり)。


第1545回(2008年05月06日(火))
 …客観的には男の子そのものなんだが。
「この能力ってお互いの行動とか操れないのかな?」
「何だよそれ?」


第1546回(2008年05月07日(水))
「そのまんまの意味だけど?」
 恐ろしいことを平気で言い放つ我が妹。


第1547回(2008年05月08日(木))
「それってもしかして…」
 自分の声ながら脳内に響くついさっきまでと違うかん高さが違和感を喚起する。きっと可愛い声なんだろうけどどうにも生々しくて素直に楽しめない。
 妹という第三者を介しているからかも知れない。


第1548回(2008年05月09日(金))
「ま、別にアブナイこととかさせる訳じゃないよ」
「当たり前だ」
「でも折角身体も服もお互い異性になってるのに、この上仕草とか言葉遣いがそのまんまってのもおかしいよねえ」
「もう充分だよ。そこまで変わったら何が残ってるってんだ」


第1549回(2008年05月10日(土))
「精神だよ。ハート」
「あほくさ」
 腕組みをするファッションモデルみたいなオシャレな格好の青年となっている聡(さとり)。
「そうだなあ…この能力ってお互いを変身させるじゃん?」


第1550回(2008年05月11日(日))
「それで?」
 ぶっきらぼうに返す歩(あゆみ)。
 ミニスカートから覗く脚をベッドのへりに腰掛けてぶらぶらさせている。
 完全に年頃の女の子だ。可愛い。


第1551回(2008年05月12日(月))
「でもって“戻れ!”と思わない限り戻らないじゃん」
「そーだね」
 なんだか投げやりになっている歩(あゆみ)。倦怠期のカップルみたいだ。
「ならそれって仕草とか言葉使いも含まれるよね?」
「そんなことは無いんじゃないか?今まではどんな格好させられても別に女言葉になったりはしなかったわけだし」


第1552回(2008年05月13日(火))
「試して見なきゃ分からないじゃん」
 …歩(あゆみ)は想像をめぐらせた。
 それって一体どういう状況なのだろうか?自分の意思に反して身体が勝手に動くってことなのか?
 いや、動くことは動くんだけどその挙動が女の子っぽくなるということなんだろうか?


第1553回(2008年05月14日(水))
「まーじゃー折角なんて、お兄ちゃんは言葉使い女の子っぽくよろしく」
 何だか胸がドキっとした。
 声質はかなりハスキーっぽくなっているとは言え、イントネーションは完全に能天気な我が妹のものである。
 その声で名指しでそんなことを言われると分かっていても心臓に悪い。
「…ねえ、何かしゃべってよ」


第1554回(2008年05月15日(木))
「そんなこと言われても…」
 城嶋兄妹が同時に「ビクッ!」とした。
 そして顔を見合わせる。
 立っている弟…中身は妹…にベッドに腰掛けている姉…中身は兄…がお互いの変わり果てた姿を見つめあった。


第1555回(2008年05月16日(金))
 言葉にしなくてもお互いにピンと来ていた。
 さっきの台詞は特にどうと言うことはないものだ。男女の区別がある様な類のものではない。
 だが、その言葉のイントネーションから響きから息遣いまでが今までのものとは明らかに違っていたのだ。
 …少なくともそんな気がした。


第1556回(2008年05月17日(土))
「…お兄ちゃん…『おれ』って言ってみて」
「…ホントに?」
 思わず出てしまった言葉だが、やっぱり何か違う気がする。
 ゴクリと唾を飲んだ。
 真夏の暑い盛りなので部屋には緩やかな「除湿」が掛けられており、エアコンが低くうなっている。
 ほどよくひんやり涼しいはずの部屋の中で歩(あゆみ)は脂汗をかいていた。


第1557回(2008年05月18日(日))
 その脂汗は服の中の身体を水滴となって伝い、乳房を締め付けるブラジャーにひっかかって広がった。
「え…と…」
 たった一言発するのに偉く時間が掛かっているが、唯一の観衆にして元凶である聡(さとり)は文句を言わない。


第1558回(2008年05月19日(月))
「おれ」
 鈴の鳴る様な声がごく普通に「おれ」という、一般的には男性の一人称とされる単語を吐き出した。
「…あれ?」
 少年となっている聡(さとり)がずっこけた。
「なんだ、気分的なもんか」
 歩(あゆみ)の脳はその様に言おうとして恐らくその様に横隔膜と声帯に指令を送った。…と、思う。
 だが、実際に発された音はこうだった。
「なんだ、気分的なものね」
 …っ!!


第1559回(2008年05月20日(火))
 今度こそ二人揃って飛び上がるほど驚く。
 歩(あゆみ)は自分の意思に反して望んでいない単語が口から出たことに、体験した事の無い違和感の虜となった。
 背筋をぞぞ〜っと怖気が走りぬけ、氷の塊(かたまり)が血管を通して頭のてっぺんから背中を通ってお尻まで降りていく様だった。
「…お兄ちゃん?…今、何てった?」


第1560回(2008年05月21日(水))
「いやその…別に…」
 改めて言われると困ってしまう。
 今どきコッテコテの「女言葉」なんて使っているのはそれこそオカマくらいのものではないか。
 そもそも「女言葉」というのは日本語独特のものである。
 「わ、よ、かしら」などの「終助詞」と呼ばれる語尾を付すことによって「女言葉」が形成されるのだが、面白いのは「終助詞」というのは品詞分類的には「あってもなくても文意は通じる」という存在であることだ。

  




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