TS関係のオススメ本10-04


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真城 悠


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LEGAの13」第1巻
(2007年・やまざき貴子・小学館)

 女性作家にとって劇中の男性の女装ってのは一体どういう位置づけなのでしょうか?
 少なくとも男性作家にとっての劇中の女性の男装とは違うのだろうな、ということは分かりますが、正確にどのような物なのかは永遠に分かり合えないものなのかもしれません。

 やまざき貴子さんといえばTSファンにとっては「っぽい!」の作者さんでしょう。
っポイ!―やまざき貴子画集
っポイ!―やまざき貴子画集

 劇中に
「息をするのと同じように」自然と女装が入り込んで来る展開の少女漫画。
 とても可愛らしく、そして女性作家さんらしい清潔感に溢れた作品です。

 ムラムラと煩悩を刺激するタイプではないのですが、元々当サイトは…表現が安易なのですが…「萌え」系のTSを追求しているのでこれはこれでとてもいい感じです(^^。
 「っぽい!」はかなり売れたのか、「何か持ち帰りたい」と古本屋に行けば必ず目に入る作品でした。
 そのやまざき先生が描くヨーロッパを舞台とした時代劇。
 それが「LEGAの13」です。

 よく「少女漫画」を揶揄する表現として、「背景に常に花を背負っている」「目の中に星がキラキラ」などがあります。
 確かにそういう少女漫画も多いですが、それが何か問題でしょうか?普通に面白ければいいでしょうに。
 実は「少女漫画の代表」たる「ベルサイユのばら」なんか正にそれですよ。でも、怒涛(どとう)の面白さではないですか。何の問題もなし!

 ただ、余りにも「少年漫画」の文法と違うのでとても「読みにくい」のは間違いありません。

 例えば少年漫画では「普通のカッコ内の台詞は実際の台詞で、実線で囲まれていない台詞はモノローグ」という「暗黙の了解」があったりするのですが、池田理代子先生はこんな「少年漫画的ローカルルール」は軽くぶっちぎるので、最初の内は誰が何を喋っているのかも良く分かりませんでした。

 また、「マンガ夜話」で漫画家のいしかわじゅんさんが指摘するように、少女漫画では「背景」が余り無いことが多く、
よほど読みなれていないと「キャラクターがいまどこで何をやっているのか」も把握しにくいことが少なくありません。

 やまざき貴子先生のマンガは、そうした特徴は余り無いのですが、それとは全く別の意味で非常に「少女漫画的」です。
 つまり、
「慣れていないと読みにくい」んですね。

 これは何がどうして読みにくいのかってのは非常に説明し辛いです。
 何というか、脳の使い方が明らかに「左脳的」でなくてはならない訳です。これは「X+Y」(レビューはこちら)の時にも同じことを書きましたが。
 恐らく、「少年漫画しか読んだ事は無いけど、TSものならば手を出してみよう」という方がこの漫画を読まれたならば、
殆ど粗筋を把握することも出来ずに、目の前のコマに収められた絵と台詞が凄い勢いで脳を右から左に抜けていくと思います(爆)。

*表紙の性別不詳なのが主人公のレガーレ。こちらが父のゲオルグ。
 自称・錬金術師で近所の人々からは「魔法使い」と呼ばれています。
 私の見たところ彼がやっているのはプラシーボ効果によるまやかしによる治療の類ですが、
民間療法なので下手に瀉血なんぞするよりも効果があるでしょう。

 何というか、ハーラン・エリスンの一部の小説みたいに「一行たりとも疎(おろそ)かに出来ない小説」読んでいるみたい感じですね。
 かく言う私も最初に読んだ時には全くストーリーが把握出来ず、思わず何度も読み返してしまいました。

*どうです鬼の様なこのネームの量!
 少年漫画だったら連載一回分ですよ(大袈裟)!
 おそらくこれも連載開始前に調べた資料がやまざき先生の頭の中に
みっしり入っているので、その一部を出しただけです。う〜ん、読むのに頭を使う漫画だ(爆)。



*トンでもない情報量なのでとても分かりにくいのですが、要するにお父さんはメディチ家に勤めていた薬師(くすし)だったみたいです。
 少年漫画の文法からはとても信じられないのですが、コマの左下のところに「そして僕もまた魔法使い(ストレーガ)と呼ばれている」とムチャクチャ大事なことがさらっと書いてあります。もう全編この調子。これについて来られますか?



*これが物語を通しての目的であり、そしてタイトルの由来でもあります。

 この父親が大変なトラブルに巻き込まれます。
 舞台が16世紀後半のベネツィアですので、
父が「魔女疑惑」を掛けられてしまうのです!
 私みたいなTS好きですと、この
「男なのに魔女疑惑」という辺りでピンと来たりしちゃうんですが(爆)、これは実際にあった事例です。

Wikipediaより 「魔女狩り(フランス語Chasse aux sorcieres、英語Witch-hunt)は、中世末期から近代にかけてのヨーロッパや北アメリカにおいてみられた魔女(sorcieres、Witch)や魔術行為に対する追及と、裁判から刑罰にいたる一連の行為のこと。 (中略) なお「魔女」と称するものの犠牲者の全てが女性だった訳ではなく、男性も「男性の魔女」ともいうべき形で含まれていた

 「男性の魔女」とかいうと意味不明な感じですが、要するに教皇権が強くなっている時期で、下手すりゃ一国の王様よりも偉かったりした頃ですので、「神」に反するものなら何でも良かったみたいです。
 この時に犠牲になったのは主にキリスト教以前に土着で信仰されていた現地の宗教や、民間療法の薬草作りなどが「魔女である」と判断されたみたいです。

 有名な話ですが、「魔女である」とされて火刑に処される場合、その「蒔代」すら個人資産や関係者の資産から没収されましたので、為政者にとっては「やればやるほど儲かる」ものだったそうです。ひえ〜。
 果ては「ご近所トラブル」で
「あの奥さん気に入らないわ。魔女ってことで焼き殺させましょう」みたいな感じで嘘の密告をしていた例もあるんだとか。くわばらくわばら。

*レーガの周囲には、幼少の頃から「クラリーチェ」という幼女の霊(?)がいます。
彼以外には見えませんが、レーガは話すことも触ることすら出来ます。
 今のところそれほど目立った活躍はしていませんが果たして?

 魔女疑惑で拘束される父親。流石にショックを受ける息子のレガーレ。
 

 失意でもプレイボーイぶりが忘れられないレガーレは盛り場を流すのですが、そこで教会の坊主に扮していた謎の男に遭遇。
 作風なのかわざとなのか、読者の感情の起伏を積極的に喚起させず、するりするりとストーリーが流れていくのでよほど気をつけていないと存在すら意識出来ませんが、どうやら物語全体を通したかなりの重要人物であるようです。
 彼の姦計(?)による密告で、父に成り代わって自らが魔女疑惑で拘束されてしまいます。



 直後になんと「太守」が彼をこっそりと牢から連れ出し、自らの生活の面倒を見てくれることになります。



 実はここに至るまでが全てあの謎の神父の陰謀だった訳です。

 思わぬ展開ですが、これでレガーレの生活はどの様に変わったのでしょうか?
 もしもレガーレが父の魔女疑惑を肩代わりする形になっていなかったら父が火刑に処されていたでしょう。そして、こうして牢から連れ出されなければレガーレ自身が火刑に処されていたと思われます。

 …つまり、少々強引ではありますがある意味「最善の方法」だったとも言える訳です。

 さて、ここから先は
「身の安全」と引き換えに「自由」を失ったレガーレの「奇妙な生活」が描かれることになります
 そして、そこに「仮装(マスカレード)」としての「女装」が登場することになる訳です。

 これまでも何度も書いてきましたが、劇中で「女装」やら「性転換」が登場する際、それをどの様に使うかは千差万別です。
 明らかに「それを描く事そのものが目的」である物語もあれば、「物語上の必然として」描かれる場合もあります。

 この「LEGAの13」に登場する「女装」は、そのどれでもありません。
 主人公の錬金術師・レガーレを巡る物語ですから、「女装(する・させる・させられる)」そのものを描くことが目的ではありません。
 また、物語の展開上どうしても必要であるか?と言われれば「あった方が楽しいけど、無ければ無くてもいい」という展開。


 つまり、
「ちょっと刺激的な好奇心」程度の扱いなのですね。

 今回紹介するのは第1巻なのですが、恐らく
これから先も長く続くであろう大河ストーリーの、ホンの一部に登場した女装、という扱いになると思います。

 これからも頻出する可能性も匂わせてはいますが、恐らくあと10数巻はあるであろう本編中に2〜3回。番外編ででみっちり…欄外やオマケでたまに…というところじゃないでしょうか(ヤな読者だな)。

 レガーレはアイデンティティがしっかり確立した、肉体的には勿論のこと精神的にも「大人」いや「大人の男」なので、「女装」において不平不満を垂れることはあっても、それで精神が揺らいだりは一切しません。

 「男」ならちょっと女装するくらい平気でしょ?ムキになって嫌がるのはそれだけ自我が確立してないってことですよ。それとも何ですか?
あなたはスカート一枚履いただけで身体が女の子に変身しちゃうとでも?(演出でこういう書き方をしているのでよろしくお願いします)

 その意味では、必要も無いのに自主的に女装してしまう不思議の国の少年アリス(レビューはこちら)のありす君(第1話のみ)みたいです。

 では何故わざわざ紹介するか?
 それは、その
ビジュアルと趣向が余りにも美味し過ぎるから。
 ぶっちゃけ、私は410円と安いこともあって十分値段分の元は取りました。

 さて、「囚われの身」となっているレガーレは「変装して」ならばということで外出が許されます。


そういえばこいつはこのドレスをどこで調達したのでしょうか?今思いました(爆)。
右下のびっくりしているコマとか普通に美女の造形ですね(*^^*。

 劇中で「カルネヴァーレ」と表記される「謝肉祭」における「仮装(マスカレード)」の一環とも引っ掛けている訳です。
 ハロウィン(万聖節)にも仮装の風習がありますし、あちらはそういうのには大らかみたいですね。今では「コミケの風俗」から「秋葉原の風俗」にまで一般化した「コスプレ」ですが、元はSF大会での名物でしたし、更に言えば仮装パーティが珍しく無い西洋の文化が発祥です。

 ちなみに「謝肉祭」とは何でしょう?
 恐らく名前だけはそこそこ知られているでしょうが、実際にどんなものかは日本人は余り知らないと思われます。

Wikipediaより
「謝肉祭(しゃにくさい)とは、カトリックなど西方教会の文化圏で見られる通俗的な節期。四旬節の前に行われる。 仮装行列やパレードが行なわれたり、菓子などを投げたりする行事が行なわれる。
(中略)
 カーニバル等の呼称は、ラテン語のcarne vale(肉よ、さらば)に由来するといわれている。ファストナハトなどは「断食の(前)夜」の意で、四旬節の断食(大斎)の前に行われる祭りであることを意味する。」


 数多く存在する宗教的禁忌(タブー)の一環として、「肉食」が制限される時期に突入する前に「しばらく肉が食えねーから思いっきり肉を食いまくって騒ぐぞ!」というお祭りなんですね。だから「謝肉祭」。

 「太陽の出ている時間帯は水一杯も口にしない」イスラム教の「ラマダーン」(断食月)の親戚だと思っとけば大筋間違いありません。
 キリスト教とイスラム教(とユダヤ教)は元々経典の多くを共有する兄弟みたいな宗教ですしね。
「コーラン」に「旧約聖書」に登場する大天使ミカエルと大天使ガブリエルが登場するって知ってます?

 イタリア語表記ですと「カルネヴァーレ」ですが、英語ですと「カーニバル」となります。
 日本人は思わず「お祭り」一般を指す言葉として「カーニバル」を使ってしまいそうになるのですが、これは「謝肉祭」を示す「固有名詞」なので「謝肉祭」以外には本来は使えません。「祭り」一般は「フェスティバル」ね。
 とはいうものの、次第に宗教的な意味が薄れてきているのは世界共通みたいですが。

 話が逸れました。

 ともかく、レガーレは多少華奢っぽい描写こそされていたもののごく普通の男性ですし、女性をとっかえひっかえするプレイボーイだったのに、
いざ女装してみると実に見事に「化け」てみせるのです(^^。これぞ「絵で見せる」特徴を備えた漫画の勝利ですね。
 非常に「小説的」な物語ではあるんですが、これは「小説」にはまず不可能な芸当。
どれだけ言葉で説明されても次の一枚には適いませんから。



…Σ(゜Д゜)!!

 
やっぱり女性作家に綺麗なドレスを描かせたら素晴らしいですね(^^。
 もう完全に女性にしか見えません。

 ちょっと無粋なことを言っちゃうと、これはもう丸っきり
「ありえない」レベルの女装です。

 …あ、分かってますよ。これは漫画なので、「それを言っちゃあおしまい」だし、何もこれを持って「だからこの漫画は駄目!」と言っているんじゃなくて、これに引っ掛けてくどくど語りたいだけなのでご容赦を。

*衣装が衣装であるせいなのか「小娘みたい」な挙動で文句を垂れるレガーレ。
 ちゃんと「コルセットが苦しい」ところも押さえています。
 ( *´∀`)…カ、カワイイ…

 実はどの年代を取って見ても
男性と女性の「胸囲」のサイズはそれほど差が無いってことはご存知ですか?

 女性で「バスト90センチ」などというと「かなりの巨乳」ということになってしまいますが、実は男性で「バスト(胸囲)90センチ」なんて人はそれほど珍しくありません。少し大柄な男性ならば楽に達成してしまう数字です。

 恐らくこれを読んでいる男性読者のあなたや、周辺の男性も「バスト80〜90センチ」くらいならばごく普通にありますよ。

*肩と背中の一部がむき出しになったセクシードレスで男性に囲まれるレガーレさん(男)。

 では全ての男性が「巨乳」か?といえばそんな馬鹿なことはありませんよね。

 要するに女性の言う「胸囲」というのは「トップバスト」という意味なんです。
 簡単に言えば「最も盛り上がって(とんがって)いる部分」を計った数字が「バストサイズ」となる訳です。
 ブラジャーのカップサイズが「トップバストとアンダーバストの差」で算出されるように、男性と女性の身体の差を数字で比較しようとするならば「アンダーバスト(胴回り)」の数字を持ち出さなくては正確なところはわかりません。
 これを持ち出すと男性と女性の肉体的な「差」は一目瞭然です。

 女性の身体から「乳房」を除外して考えると、男性からすれば
「考えられないほど細い」ものになります。

 これはもう肋骨(ろっこつ)の構造がDNAレベルで違うので、
痩せたの太ったのとは別次元の話です。
 ですから、
男性が「骨と皮になるまでダイエット」したとしても「同サイズ」の女性物のドレスを着る事は出来ません(なので気合の入った女装者の方は外科手術で下の方の肋骨を削り取る人もいるんだとか。ひえ〜)。

 よく男性が女装する際に胸に「詰め物」をしますが、どうしても「過剰」な感じにしか見えません。
 それも道理で、元々バストサイズは足りている訳です。足らないのは「メリハリ」です。
 だから、元々太いところに更に「足す」形でメリハリを作ろうとすることになってしまいます。より「女性的」に見せたいならば、「出ているところをより出す」よりも「細いところを徹底的に細く」した方がそれらしく見えます。

 …が、そんなことは不可能なので、結果として「胸(乳房)をより増やす」ことで強引にメリハリを作るしか無いと。

 私なんかもよくTS描写で「胸が盛り上がってきた」的なことは書くんですが、
解剖学的に正確に描写するならば「身体全体が縮んで行き、胸の部分がおわん型に盛り上がったまま残った」という形の方が「より正確」ということになります。

 …とまあ、以前にも書いたことをグダグダ書いてきた訳ですが、要するにこの漫画で描かれるレガーレの「女装」がどれだけ「ありえない」ものかが言いたかった訳です。
 
どんな変装の達人でも「自分より小さい人間」に変装することは出来ないでしょ?「自分より細い人間」にも。

 幾らコルセットで締め付けてるからって、
男性があのウェストサイズを実現しようと思ったら肋骨を何本かへし折らないと不可能なんだから。

 江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズの名物敵役である「怪人二十面相」は変装の名人でしょっちゅう女性にも変装しているんですが、どうやったのでしょうか?(ちなみに「小林少年」も潜入捜査でしょっちゅう女装しており、その挿絵の可愛らしさは一見の価値あり!スキャンしてあるのでその内ご紹介します)

 何度も書きますが別に「非難」じゃないですからね。
 レガーレにだけ見える幽霊(?)の「クラリーチェ」の存在以外には非現実的なことが一切起こらない「時代劇」なのですが、ここはファンタジーですよ。ええ。
 折角、お祭りにかこつけて女装するのに誰がセクシードレスから覗くうぶ毛のうっすら生えた野太い男の背中なんぞ見たがりますか(爆)。

 これは少女漫画ですよ?
 美女にしか見えない美青年の華麗な女装姿なんて、少女漫画にとっては当たり前の存在です(言い切った!)。

*何度見てもありえないほど細いウェストラインもセクシーなドレスのレガーレさん(男)。
 苦痛そのもののコルセットでお分かりの通り、当時の女性にとって(今もか)「ウェストをどれだけ細く見せるか?」というのが最大の関心事でした。
 あの大きく広がったドレスのスカートの形状すら「目の錯覚でよりウェストが細く見えるように」工夫された結果だというから驚きます。
 ここで「お祭りなんだからバレてもいい」と吹っ切っているのもこの後の展開に繋げるポイントだったり。
 ちなみに「旧約聖書」には男性の女装、女性の男装を禁じる記述があります。
 シャレの分からん神様ですね(^^。
 ちなみに「ギリシア神話」では女装する男の子の話や「神罰」で女に性転換させられる男のエピソードがあります。

 TSもので「女装“させられる”男の子」の中には、自らの格好に引きずられて挙動まで軽く女性化してしまって、余計恥ずかしさに縮こまる
「ピュア」(?)な男の子も多いわけですが、レガーレさんはそんな「少年漫画に出てきそうな軟弱な被女装少年」あたりとは一線を画しています

 「女装せざるを得ないシチュエーションでも自らの男性的アイデンティティが全く揺らがない」というキャラとしては、リバーシブル(レビューはこちら)の大日向準がいたりしますが、レガーレもまたこのタイプ。

 何しろプレイボーイとしてモテモテだった彼は、かつて自分がその立場であった「パーティ会場のモテ男」に激しく敵意を燃やします。

*頬を膨らませるレガーレさん(男)。
 普通に女の子なんですが…

 そこでなんと
「女性として」新参者のモテ男をからかってやろうとカマを掛けます。
 まあ何と大胆というか何と言うか。

右の人物は男性ね!皆さん忘れないように。

オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史」にわが国の「漫画」がアメコミしかなかったアメリカに輸入された時のアメリカ人の衝撃が記されています。
 その時に衝撃だったのが「時間軸」を多いに引き伸ばして場面場面を映画みたいに演出した…要するに我々が普通に読んでいる「日本の漫画」…方法論でした。
 実際、非難として「日本の漫画は内容が薄い」というのもあったそうです。
 後に「デアデビル」などはこの日本の漫画に影響を受けた作品としてブームを巻き起こすおですが、我々からすれば別に斬新な手法でも何でもありません。
 豆知識ですが、アメコミがどうしてああもページ数を濃密にしなくてはならないか?といえば出版形態の違いもあります。
 辞書みたいに分厚い「漫画雑誌」などという代物が存在するのは世界でも日本くらいのもので、印刷代がかさむカラー印刷であるアメコミはどうしても少ないページ数にする必要があったのです。だから1つのコマの中で会話が2〜3度往復するみたいな「アメコミっぽい」画面にならざるをえない。
 やまざき先生の作風は期せずして「アメコミ寄り」になってます。逆にアメリカ人の方が読みやすいかも?

 ここで耳元でこっそりラテン語をつぶやき、それに返答できるかどうか?という恐ろしく高度な「駆け引き」を展開します。
 そして上記のコマを参照して欲しいのですが、外に聞こえる様な会話としてコミュニケーションを展開しつつも、「モノローグ(独白)」として別の論理が同時に展開するという密度の濃さ!これがわが国の少女漫画ですよ!
 「ディプロマシー」かよ!


 
全編この調子で、コマは3つしかないのにその間で「やりとり」がパラレル(平行)に2〜3種類展開されるなどはザラ。まるで士郎正宗)…は言いすぎでもアメコミみたいな感じです。
 これを「ベ○サ○!流○拳!」とか、「み○な!オ○に○気○分○て○れ!」みたいなものと同じ脳の使い方で読める訳がありません。
 いや、あれはあれでいいんですよ。ただ「論理が違う」って話。
 同じ「漫画」という区分になってますがまるで別物と考えるべきでしょう。
 同じ「人間」に区部されてはいるけど、男と女がまるで違う様に。

 それにしても挙動といい、むき出しの肩や鎖骨、首筋、うなじのセクシーぶりやウェストは勿論のこと腕の細さにいたるまで
完璧に女性そのもの

 それでいて挙動の艶かしさまで完璧です。どこで練習してたんでしょう?それとも精神的に成熟した「大人の男」にはこの程度の「女の演技」は楽勝なのでしょうか?

 ちなみに私の取材では「肩」の部分で支える事が出来ないこの手のドレスってのは「胸」部分で引っ掛けることによってもかなり「ずり落ち」を防止しているはずなのですが…どうやってるんでしょうか。

 恐ろしいことに、レガーレさんはこの「自分の(モテ男としての)地位を奪った新参者」を懲らしめる為に
そのままベッドまで引きずり込んでしまいます(!!)。

 そこで、「実は男でしたっぴょ〜ん!」と暴露することで「ショックを与えてやろう」とするんです。


 何だか、「女装」そのものを嬉し恥ずかしの最終兵器として大事に大事に扱っている価値観からは
1光年くらい離れた展開です。

 美少女モデルとして活躍して(ということは日々何らかの形で女装して)いながら、
ドレスを着せられてメイクされただけで天地がひっくり返るほど動揺している咲田くんまるでシンデレラボーイ主人公。レビューはこちら)がこの境地に達するには2度ほど生まれ変わらないと無理でしょう。

 しかし、普通は「バレない様に」しないかね。幾らお祭りだからといっても。
 私が彼の立場だったら「男なのにこんな格好していたことがバレてしまう」ことの方に恐怖を感じると思うんですが。

 ところが…なんと、この
「プレイボーイ」の方も実は「男装した女性」だったのです!!

 つまり、一見「普通のカップル」に見えるこの二人は「男装した女性」と「女装した男性」のペアだったんですね。
 いやあ、もう
幾重にも倒錯してるというか何と言うか…。

 それもお互いに「正体を暴露して相手を脅かしてやろう」としているんだから二度ビックリ。

これは翌朝の風情。「彼女」が帰った後。勿論何も無いんですが、レガーレさん普通に「女の子の仕草」になってますね…。


「お互いさま」状態が発覚した後の二人。…ここから盛り上がるのは無理だわなあ…

 エクスカリバー(レビューはこちら)の時にも思ったのですが、
ビジュアルではもうおなか一杯になるほど楽しませては貰ったんですが、本当にさらりと女装エピソードが扱われてますよね(^^;;。

 物凄く刺激的なエレメント(要素)てんこもりながら、「その点」に思いっきり感情移入して読んでいる私みたいな読者でも無い限り、ここに至ってもそれほど感情が上下しないんですよ。
 恐らく現役の少女読者に「LEGAの13」の印象を聞いてみても「女装」があったことも憶えていないでしょう。
 いや、憶えていないってのは言い過ぎでも、それほどの比重を占めるイベントではないことでしょう。「ああ、そんなのもあったわね」位で。
 私なんかこの長さの文章したためるほどの影響は受けたのに(爆)。

一部しか紹介出来ないのが残念な「女装」をめぐるやりとり。
 「自分で外せないコルセット」などという道具立てで「女装させられる」…つまり、自分で脱ぐことで女装から解放されることが出来ない…誰かにコルセットを外してもらう…脱がせてもらうしかない…はそっち系のフェチの方にはたまらないんじゃないでしょうか

無粋を承知で図示しますが、この背中側の「開いたコルセット」がポイント。
何ともはや生々しい…。そしてむき出しの肩や腕のセクシーなこと!本当に男か!?
 裸で帰るわけにも、パトロンの手前お互いに衣装を交換したりして「着替えて」帰るわけにもいきませんから、この後彼女にコルセットを締めなおしてもらってドレスを「着付けて」帰ったと思われます。う〜ん、素晴らしい。
 この他にもこの回は「見かけは完全に女性なのに、男の挙動」のままベッドで男装した女と語らうカットが続く素晴らしい回です(^^。
 これはある意味めたもる伊介(レビューはこちら)で、「何の意味も無く全裸の女性同士になって会話する男たち」にも匹敵するイメージです。


 まだ1巻しか発売されていないみたいですが、これから続く長い長い物語の中の一場面に登場したであろう女装場面。
 しかし、そのビジュアルイメージや「記号」としての女性性の演出、何よりファンタジーに溢れた「漫画ならでは」の飛躍がとても素晴らしかったです。

 とにかく、男性読者は、この濃厚な「少女漫画文法」に慣れ無いとストーリーを追うのも困難ではありますが、これを機会に是非こちらの世界もどうぞ!と言いたくなる「TS的佳作」でしたね(^^。
 いや、
ビジュアルイメージだけならば傑作、大傑作と言い換えてもいいでしょう(*^^*。

 amazonの広告にも大きな画像は無いみたいだし、何よりこの表紙だけでは「TSものとして」の売り出しは弱いですから余りアピールしません。Web上には余り評らしきものも見つからない「隠れた傑作」というところ。
 これまた「思わぬ拾い物」でした。

 では最後に
「クセになっちゃった」のか、自主的にドレスを着て女装するレガーレ(どうやってコルセットをしたんでしょうか?遂に自分で付けられる様になった?)と、それを揶揄する守護霊(ってことにしときます)のクラリーチェのやりとりを紹介してお別れです。
2007.10.11.02.Thu.


( ;´Д`)ハァハァ…

*関連作:コルセットを駆使したドレス女装が登場する時代劇という意味で言えば、こちらは「怪物」も登場するファンタジーですがシュヴァリエシリーズがあります(レビューはこちら)。

*関連作:「魔女狩りの犠牲になる」という事で言えば、女にされた上に中世ヨーロッパに飛ばされて魔女狩り裁判に掛けられてしまう気の毒な犠牲者がBAR来夢来人に登場しています(レビューはこちら)。

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これは読むしか!前巻はこちら → LEGAの13」(レビューはこちら

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