おかしなふたり 連載581〜600 |
第581回(2005年05月10日(火)) 「・・・はい」 消え入りそうな声だ。 「御無沙汰してます。久しぶり」 「・・・はい」 こういう場合、どういうスタンスで接するべきか悩む。馴れ馴れしく行くべきか、とても丁寧に接するべきか。自分でいうのも何だが、こちとら若い女なのでおっさんのスカウトの無言の圧力や、若い男のスカウトの持つうさんくささは無いのが強みだ。 「話はどこまで聞いてくれたかな?」 結局フレンドリー路線で行くことにした。妙な話、こちらはコントロールする側なので余り最初から下手に出てそういう関係で固まってしまうのも困る。 「・・・一応、全部聞きました」 この声だけでは先日の女の子とは判断出来ない。 「とりあえず会ってもらえないかしら」 「その・・・スカウト・・・ですよね?」 |
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第582回(2005年05月11日(水)) 「まあ、そういうことになるけど」 「あの・・・御遠慮します」 「それはどうして?」 「だってその・・・」 これはあんまり脈が無い。しかし流石に電話で諦める訳にはいかない。こちとら一応プロだ。 「せめて一回会って頂戴。それで細かい所まで話して、納得してもらえないのならあたしも諦めるから」 「え・・・その・・・」 どうやらこの娘(こ)は歌っていない時にはまるで大人しいタイプみたいだ。そういう人種は確かに存在する。その瞬間何かがぴんと来る。 「ごめん、あゆみちゃん、ちょっと待ってくれる?」 同時に受話器の口の部分を押さえて目の前の女子高生に話しかける。 「さとりちゃんだっけ?」 「はい、さとりです」 「今度会わせてよ」 「え?・・・あ、あの〜」 珍しく少し動揺している感じだ。 |
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第583回(2005年05月12日(木)) ほんの少しだけ考え込む聡(さとり)。 「めぐさん」 初対面にも等しいのにもう「めぐさん」である。なかなか度胸の据わった子だ。これは上手く行きそうな気がする。 「なに?」 「やっぱり会って話さないと駄目ですよね?どっちにしても」 どうやらこの電話を繋ぐ前に聡(さとり)と「あゆみちゃん」の間にも打ち合わせがあったらしい。まあ当然だろう。 「そうよ。“どっちにしても”ね」 ある程度覚悟はしていたが、この言い方だと「断ろう」として「せめて電話だけでも」というスタンスでいるのは明らかだ。 だがここは押してみるしかない。直接会わないとお断りを全く受け付けないなんてことは無いのだが、少々のラフプレーは許容してもらう。 「・・・分かりました。ちょっといいですか?」 聡(さとり)に携帯電話を返す恵(めぐみ)。 |
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第584回(2005年05月13日(金)) 「あー、もしもしーあゆみちゃん?」 ・・・今何かピンと来た。何か分からないけど、この兄妹は何か隠している。何だろうこの違和感は?絶対に何かある。 「だってさー。とりあえずどんな機会でもいいから一度会わないと駄目っぽいよ」 それからしばらくあれこれ話していたが、どうやらまとまったらしくそこで切れた。 「・・・で?どうだった?」 どうやらこの聡(さとり)ちゃんが生命線になりそうだ。彼女なら話も通じるし、本丸であるところの「あゆみちゃん」も普通に友達らしい。この娘が鍵だ。 「えーと・・・本人は納得して無いみたいだけど、何とか説得して一度会う様にします。はい」 「ふーん・・・基本的なこと聞いていいかな?」 「はい」 聡(さとり)は目の前のソーダをストローでちゅーと吸う。 「さっちゃんにとって「あゆみちゃん」ってどんな関係なの?」 「いとこ」 即答だった。 |
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第585回(2005年05月14日(土)) 「ふーん・・・近所に住んでるの?」 「近所じゃないよ」 「でもよく会うんだ」 「うん」 「同じ高校なの?」 「うんにゃ。高校は違うよ」 流石にちょっと年上に対して砕けすぎだと思うけど、まだうちと契約している訳でも無いし、とりあえずここは放置。 「じゃあ、この辺にいるんじゃないの?今から会えないかな?」 |
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第586回(2005年05月15日(日)) ・・・また通じない。全く・・・。 歩(あゆみ)は携帯電話の画面を見ながら嘆息した。 饐(す)えたような匂いの立ち込める狭い密室の中で立ち尽くしている。 結論から言うとここは男子トイレだった。 その中にいるのはショートカットの美少女である。 そう、「あゆみちゃん」と電話をする為に城嶋兄妹が取った策がこれだった。 「あゆみちゃん」と話すにあたって兄であるところの歩(あゆみ)が姿を見せなくなるという不自然さはあるものの、とにかく「変身」した状態で密室に閉じこもり、声だけで会話するというものである。 この能力は意識して使おうとすると実は結構難しい。 一種の「着替え」みたいなものなので、他人には見られたくない。何しろ見る間にぐんぐん変わっていくというマンガみたいな能力である。こんな異常事態を日常的に引き起こしていたのでは目立って仕方が無い。いずれ大変なことになるだろう。 であるから出来たら「更衣室」ならぬ「変身室」みたいなものが欲しいほどだ。 その意味で言えば「トイレ」はある程度の条件を満たしてはいる。 いるんだが、男女別に分けられているだけに別の問題も浮き彫りになる。 男子トイレに男が入って女になって出てきたのでは問題がある。同一人物の入りと出をチェックしている野次馬はいないだろうが、男子トイレから女子が出てくるというのが大問題。 反対に至っては言語道断で、そもそも女子トイレに男子が入るだけで犯罪だ。女になって出てくれば問題は無いのかもしれないが、そもそも入る時点で逮捕である。 |
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第587回(2005年05月16日(月)) そこでこの兄妹が取ったのが「折衷案」みたいなものだった。 服装は一切変えずに「中身」だけ女の子に性転換する。勿論トイレの中でである。 そしてそこから電話で話そう、というものだった。 そこで携帯電話を握ったままタイミングを計って変身させてもらう。 ・・・ある程度成功したとは思う。 何だか「もう一度会う」ことになったみたいだが、それは聡(さとり)が勝手に言ってるだけで、こっちはばっくれればいい。 何だか期待しているみたいな口調だったから恵(めぐみ)さんには悪いんだけど、こちとら意に沿わぬ性転換された上に芸能活動なんて冗談じゃない。 確かに歌は好きだけどそれは純粋に歌うのが好きなんであって、別にテレビに映りたいとかそんなことは全く考えたことが無い。 ・・・それにしても電話通じないな。 終わったらすぐに電話を掛けて来る予定になってるんだけど・・・。 間抜けにもトイレの中に立ち尽くして携帯電話を握り締める美少女、という図だった。 |
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第588回(2005年05月17日(火)) トイレから出てくる歩(あゆみ)。 周囲を見渡す。 流石に真昼間だけあって人は少ない。 ここは先ほど恵(めぐみ)に呼び出された喫茶店から少し離れたところにあったファミレスである。 色々考えたのだが、話す内容が込み入っていることもあって公衆トイレというのはちょっと考えたくなかった。といってコンビニとかもイマイチ落ち着かない。 それほど離れていなかったこともあって、ここに駆け込んだのである。 基本的には(?)平凡な男子高校生なのでそれほど小遣いに余裕があるわけではない。一番安いアメリカンコーヒーでも150円だ。 ・・・全く・・・。 見かけを極端に変えない為に髪形もそのままである。勿論(もちろん)服装もそのまま。一応「声だけ」変えることも可能なんだろうけど、全身変えることにした。 これに関しては歩(あゆみ)も賛成である。 この能力はまだ兄妹で発言して3ヶ月足らずだけど、「これでもか」とばかりに使いこなしているのは確かだ。しかし、まだまだ分からないことは多いのだ。 歩(あゆみ)などはいつ「戻れなくなるか」が未だに心配で仕方が無いのだった。 |
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第589回(2005年05月18日(水)) であるから、最悪の場合を想定して「中途半端な状態」だけは止めておこう、というのが不文律だった。 声だけ女のままで固まってしまったらコトである。ならば全身女ならばいいのか?と言われると困る。確かに世の中には「男なのに女声」をウリにしている歌手、などという職業まであったりするんだが、そんな特殊なことは考えられない。そもそも聡(さとり)がこちらを性転換させる絶好のチャンスをそんな中途半端なことで「許してやる」訳が無い。 そもそもこの格好だってかなりの折衝があったのだ。 街中なのだから制服が自然だとか、折角だからもう一度ゴスロリ試そうとか色々いいやがったのである。 それをトイレにしか入らないからと強引に服は変えさせなかったのである。 それでもブラジャー始めとした下着だけはしっかり女物にしているのだからあの妹には負ける。 |
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第590回(2005年05月19日(木)) 店内にはまばらにしかお客がいない。 ふと見ると歩(あゆみ)がさっき頼んだアメリカンコーヒーが湯気を立てているテーブルの背中合わせに大きなサングラスを掛けて目深に帽子を被っている人物がいる。 席に着く歩(あゆみ)。 多分今日はもう電話は掛かってこないだろうなあ・・・と歩(あゆみ)は思った。 悪気は無いんだろうが、聡(さとり)は一度夢中になってしまうとその辺りの気配りが本当に出来ないところがあるからなあ・・・。 と、その時だった。 黄色い声の集団が入ってきた。 そちらに視線を向けた歩(あゆみ)は口に含みかけていたコーヒーを噴出しそうになった。 |
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第591回(2005年05月20日(金)) 「えー、そんなこと無いって」 特に抑揚も変えずにすらすらと言う。ふむ、この天真爛漫さは面白い・・・のだろうか? 「ふーん、そりゃ残念・・・でさ、ぶっちゃけどうなのかな?あなた方何か隠してるでしょ?」 「・・・え?そんなこと無いよ」 実はこれは全く何の確証も無い。「ただ言ってみただけ」である。言ってみれば「カマかけ」だ。 「ふん、顔色変わったね」 「だーかーらー!そんなこと無いってば!」 「ねーねーここだけの話だけど、歌が上手いほうのあゆみちゃんって・・・こういうこととかどう考えてるかな?」 「歌が上手い方のあゆみちゃん」というのが先日のカラオケ娘のことである。 「“こーゆーこと”って?」 「その・・・歌手になるとかさ」 単刀直入過ぎるかもしれないけど、この妹さんにはこっちの方がいいと思う。 |
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第592回(2005年05月21日(土)) 「どおかなあ・・・」 珍しく考え込む聡(さとり)。 聡(さとり)の頭の中で一生懸命分析をしている。 とにかく歌うのが好きなのは間違いない。 いつからあんなに好きになったかずっとお兄ちゃんべったりだった聡(さとり)にも覚えが無いけど、聡(さとり)が物心ついた頃には、男女歌手問わずに歌うのが好きだった。 冷静に考えれば、声変わりを期に女性ボーカリストの歌は再現が難しいはずだから中学生位の頃にそういう葛藤があってもおかしくなかったと思うのだけど、兄がそういう風に悩んでいるのを見た記憶があんまり無い。 はて、どうしてだっけ? 本気で考え込む聡(さとり)。 今も仲が良い(と、聡(さとり)は思っている)けど、当時はもっとべたべただった。お風呂にも一緒に入ってたし。 だからもしも悩んでいたら伝わってくると思うんだけど・・・そういう意味での悩みは余り無かったってことかな・・・?などと考える聡(さとり)。 「・・・さとりちゃん?」 「あ、ごめんなさい」 数秒の間考え込んでしまったらしい。 |
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第593回(2005年05月22日(日)) 「あゆみちゃんはね・・・歌うのは大好きだけど・・・別に人が聞いてなくても構わないタイプだから・・・」 聡(さとり)は正直に言った。 「ふーん、なるほどねえ・・・じゃあそういう意味での上昇志向とか無いんだ」 「上昇志向って言うか、人見知りするタイプだから。あんまり人前とか出るの好きじゃないし」 これは事実だ。というか、そもそも女にされている時点で誰の目にも触れたがらないから次元が違う。 「そうなの?この間はノリノリだった様に見えたんだけど」 「あ、それはその・・・歌ってる時は人が変わるんで・・・」 聡(さとり)は我ながら頭の中が混乱してきた。自分でも言っていることが支離滅裂なのが分かる。でもどれも事実なのである。まっこと人間というのは複雑だ。 |
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第594回(2005年05月23日(月)) 確か結構昔に妙な本が流行ったことがあった。 「マーフィーの法則」とかいう奴で、要するに外国版「あるある」本である。 やれパンがバターを塗った面が下になってカーペットに落ちる確率は100%とかそんなんだ。あの頃は確か小学生くらいだったのでそれほど面白いとも思わなかったんだけど、あれってアメリカンジョークだったのだね。 その方針は一貫していて「降ればどしゃ降り」。つまり「必ず悪いことは起こる」みたいな皮肉というか達観である。 ぐちゃぐちゃ書いているが、要するにここでも最悪の事態になってしまった。 「・・・あゆみちゃん?」 その瞬間歩(あゆみ)は後悔した。 格好はそのままでもいいので、せめて「帽子」とか、何とか顔が隠せるような工夫を考えるべきだった。というかそもそもトイレから出るべきだったのか・・・。 こういう時って本当に時が止まったみたいに物凄い量の思考が脳裏を駆け巡る。 とにもかくにも、この状態で出会いたくない相手とは一体誰だろう? 両親とか色々考えられるけども、この相手ほど最悪な相手はちょっと思いつかない。 「やっぱりあゆみちゃんだよね?」 屈託の無い笑顔の恭子がそこにいた。 |
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第595回(2005年05月24日(火)) 「あ、ああ・・・どーもー・・・」 神奈川県在住で県内の高校に通う高校生同士が何故都内でもこんな辺鄙(へんぴ)なところで出会う羽目になるのだろう・・・。 「わー、すごーい!何でこんなところにいるの?」 そりゃこっちの台詞だ。 当たり前みたいに向かいの席に座る恭子。 「い、いやその・・・」 突然のことに言い訳が全く思いつかない。 「あによ!どーしたのよ元気ないぞ!」 そりゃ元気も無くなるわい。 その時だった。 |
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第596回(2005年05月25日(水)) おもむろに立ち上がった恭子は何とテーブルを回りこんで歩(あゆみ)の隣に直接座ったのだった! 「恭子ちゃん・・・!?」 幼馴染の時の呼び方をそのまんましてしまった。 「その格好って何?どーしちゃったのよ」 身体を密着させるみたいにしてひそひそ声で話しかけてくる。 何しろ7月の陽気である。体温の高い女子高生の汗ばんだ陽気まで伝播してくる様だった。 「あ・・・これね」 そ、そうだ!すっかり忘れていたけども、今は服を全く変えていないのだった! 思わず自らの身体を見下ろす。 聡(さとり)の好みなのかその細い身体にしては立派でかつ形の良い乳房がすぐそばに迫っているが、何よりも余りにも悪い意味で男っぽい格好だった。 味も素っ気も無いシャツとズボンである。 ごく普通の男子校生がこういう格好であっても道端に転がっている石に感心が払われないのと同程度の興味しか引かないだろうが、年頃の女の子のファッションとしては大いに問題だ。 |
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第597回(2005年05月26日(木)) これは単に「ダサい服」「野暮ったい服」を越えている。 「男装」の域である。それも逆の意味でディープな「男装」だ。 それこそ宝塚の男役みたいなエキセントリックな扮装だとか、「コスプレ」みたいなのだったらまだ話は分かる。 だが、普通の男の子がしていそうな地味な格好、というのは・・・。それこそ「そういう趣味」というかもっと言えば「性的嗜好」なのかとすら疑われかねない。 ぽん、と肩に手を置いてくる恭子。 「あゆみちゃん・・・ひょっとして失恋したのかな・・・?」 「はいぃ!?」 物凄い飛び方にマンガみたいに驚いてしまう歩(あゆみ)。 「隠さなくていいよ。髪切ったでしょ?」 「あっ!・・・」 そうだった! この間彼女に出会ったのはカラオケボックスでピンクハウスを着せられていた時のことだった。その時は性転換される時には常にそうであるように腰まで届きそうな長い髪バージョンだったのだ! |
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第598回(2005年05月27日(金)) 「そ・・・そうなんだ・・・よ、うん」 強引に恭子に合わせることにした。 「しっかし随分ばっさり行ったわよねえ・・・男の子みたいよ?」 そりゃそうだ。 「そうかもね・・・ははは」 「でもショートカットも可愛いよ!いいなあ」 なんか大変なことになりつつある。というかまた妙な「設定」が増えてしまった。 「あ!わかった!」 「なに?」 「このカッコもさっちゃんに着せられたんでしょ?」 くいくいと、シャツを引っ張ってくる恭子。 「そ、そうんだんにょ!うん」 ろれつが回っていない。咄嗟(とっさ)に聡(さとり)に責任をおっかぶせる。いや、おっかぶせなくてもほぼ100%聡(さとり)のせいである。 「そっかー、大変よねえあゆみちゃんも・・・あたしも注意したんだけどねえ。あんまりあゆみちゃんおもちゃにするなって」 「注意?」 「うん。しょっちゅう電話で話すし」 そうか、あの二人はそういう仲だったっけ。それにしてもあのおしゃべりな妹がこの能力についてうまいこと口をつぐんでいるというのはある意味凄いのかも知れない。 まあ、話した所で信じてもらえるような話ではないのだが。 |
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第599回(2005年05月28日(土)) と、ひじをついてじいっとこちらを見ている恭子。 「・・・どうしたの?」 思わず神妙になって聞いてしまう歩(あゆみ)。 妹以外の女性にこうも見つめられるのは・・・やっぱり照れる。 「いや、あゆみちゃんってホントいつ会ってもえらいカッコしてるよなあと思って」 確かに・・・今回の初対面が電車の中でのウェディングドレスの時、二度目がカラオケボックス内でのピンクハウスの時。 でもって今回はファミレス内での男装の時である。というかまともに会ったことが無いんじゃないか? ・・・不本意だけどこれはうちの制服でも着せてもらっとくべきだったかもしれない・・・って駄目だよ!この「あゆみ」は別の高校に通っているという「設定」なのに聡(さとり)たちと同じ女子の制服を着てるとなるとまた話がややこしくなってしまう。 というか、結局は「コスプレ」ということになっちゃうじゃないか!ウェディングドレスほど突飛ではないだろうが、よその学校の制服を着てうろついているというのも冷静に考えればえらく不自然である。 「何か思い出しちゃった」 |
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第600回(2005年05月29日(日)) 「何を?」 その時だった。新しく入店してきた恭子に対して店員が注文を取りに来る。 恭子はアイスティーを頼む。 すたすたと立ち去った長身の男の店員の背中を見送りながら恭子は言った。 「・・・あの人ってどう思ったかな?デートとか」 とても面白そうな恭子。まるで悪戯(いたずら)を仕込んだ子供が誰かが引っかかるのを待っているみたいである。 「デートって?」 「あたしとあゆみちゃんのだよ!今のあゆみちゃんって男の子に見えないことも無いじゃない?」 と腕を絡めてくる。 「わ・・・はは・・・」 ちょっと驚く歩(あゆみ)。 恭子の胸の部分が歩(あゆみ)の腕に当たる。お互い薄着なので腕に恭子のブラジャーの固い部分の感触を感じる。 こ、これが女の子同士の接触の多いコミュニケーションって奴かな・・・とか思ったり思わなかったり。 「で、何を思い出したの?」 |