おかしなふたり 連載841〜860

第841回(2006年03月09日(木))
「わー、可愛いー!」
 またおどけて無邪気にはしゃぐ妹。
「あー、あー」
 妹にいじられるのは分かっていたが、それでも確かめて見る。確かにいつも出している声とは明らかに違う。
「これって男性で声の高い歌手みたいな活躍とか出来ないかな?」
「しねーよ。もう戻せ」
 そんな目立つことをしてたまるか。そんな特異体質はどうしても有名人になってしまっているではないか。
 それにこんなことは言いたく無いが、どうにもノーマルな感じがしない人ばかりである。
 こちとら妹のひと睨みで女になってしまうのみならず、自由に女装させられる。恐らく同年代の男子高生では最もスカートを履き慣れているに違いない。


第842回(2006年03月10日(金))
「いいじゃん。可愛いし」
 少し考え込む歩(あゆみ)。
「いや、ちょっと待て。声だけ変えて電話出来ても根本的な解決にはならんよ。周囲に人がいれば声だけ女子高生なんておぞましい図式になるだけだ」
「そっかー」
「やっぱりメールに限るしかなさそうだ」
「ぶっちゃけお兄ちゃんはあゆとこれから個人的に会う気はあるの?」


第843回(2006年03月11日(土))
「会う気ってのは個人的に呼び出されたらってことか?」
「うん。そー。少ししか話してないけど、多分ありゃ呼んでくるあたしら幸い都内在住だし」
「ここ神奈川県だぞ」
 城嶋家は東横線沿線の神奈川県エリアに存在する。
「話の腰折らないでよ。似たようなもんじゃない。あたしだって横浜とそんなに距離変わんないけど新宿とか池袋行くもん」
 ここで「渋谷」と言わないのが聡(さとり)だ。
 何故新宿やら池袋なのかは聞かなくても分かる。その辺りは全国的にも有名なゲームセンターが点在し、強豪プレイヤーがごろごろしているからだ。聡(さとり)くらいの腕前になってしまうと神奈川県の田舎の腕自慢程度では不満なのである。


第844回(2006年03月12日(日))
「話戻すけど、どうなの?あゆと会う?」
「うーん…会いたいけど…」
 何しろ出会いが出会いである。本当ならば男の時に出会いたかった。このまま女の子のままで出会い続ければいつかは必ずボロが出る。こちとら言ってみれば「ニセ女」である。一回り年上の女性と「同性として」話を合わせ続けることが出来る筈(はず)が無い。
「会えたとしても何ヶ月に一回とかだろ?何とかなるんじゃないかなあ」
「この際、あゆにも秘密を話しちゃうとかどうかな」
「馬鹿言え!」

 歩(あゆみ)は思わず立ち上がった。


第845回(2006年03月13日(月))
 立ち上がった歩(あゆみ)に合わせて聡(さとり)も立つ。別に喧嘩が始まるわけではない。

 それにしても…。
 そんな言語道断の案が採用できる訳が無い…と思う。
「いや、だからその中間の案よ」
「何だ中間って」
「まず、あゆに会う時は必ずお兄ちゃんが女の子になっておくと」
「うん」
「…お兄ちゃん、声だけ女の子なのも気持ち悪いから全身女の子になっちゃおうか」
「へ?」
「誰も見てないからいいよね。それっ!」
 思わず目をつぶる歩(あゆみ)。

 歩(あゆみ)はなんということはない部屋着のまま、その身体を同年代の少女のものに性転換された。

「うわわっ!」

 毎度のこととはいえ、急にやられると驚く。

「お前なあ!」


第846回(2006年03月14日(火))
「あ、ごめーんごめーん」
 ちっとも悪びれずに言う。
「じゃあ、せっかくだから…とりゃっ!」
「わあっ!」
 思わず両手で顔を覆って目を閉じてしまう歩(あゆみ)。

 しばしの間。
 …目を閉じたまま、す…と脚を動かしてみる。
 ふわりと空気が脚の周りを通り過ぎ、剥いたばかりのゆで卵みたいにつるつるな両脚の内側がこすれあう感触がする。
 両脚が裸…むき出しになっている。パンティ一丁になっている。
 …下半身がスカートになっているのは間違いない。


第847回(2006年03月15日(水))
「…」
 ゆっくり見下ろすと…やっぱりうちの制服になっていた。勿論女子の。
 この能力は身体を先に変えないと服が変えられないので、当然身体も女の子のものになっている。
 確かめるまでもなく、締め付けてくるブラジャーの下にはBカップとCカップの間の乳房があり、下腹部からは男性器が消滅している。
 正座の姿勢でため息をつく。


第848回(2006年03月16日(木))
「ま、いいけどさ」
 確かに誰に見られてる訳でもないし、どうせ部屋に呼び出された(?)時点でいつかはこうなることが分かっていたから平静を装う。
「何よー。リアクション薄いなあ」
「いや、別にお前を喜ばすためにリアクションする気はないし」
「いや、あたしは自分が面白いからやってるのに」
「お前なあ…」


第849回(2006年03月17日(金))
 ここで「報復」とばかりに聡(さとり)を男にして男子の制服を着せてやったりは絶対にしない。
 それをやれば一割増しで逞しくなった妹に抱きしめられたり、ほっぺをすりすりされたりするのがオチだ。スカートめくりとかのオチもついてくる。
 …小学生じゃあるまいし兄妹間でスカートめくりでもないだろう。ま、元々「兄のスカートを妹がめくる」という構図がありえないのだが。


第850回(2006年03月18日(土))
「とりあえず『中間』の案ってのは?」
「ああ、そうだった。夢中になって忘れてたわ。まずは今みたいに完全に女の子になって会い続ける場合ね」
「うん」
「やっぱ女の子同士だと落ち着くわぁ〜」
 嬉しそうな聡(さとり)。まだ男と相対するよりも女の子同士の方が楽しい年代なのだろう。


第851回(2006年03月19日(日))
「それで?」
「でもってもう一方の極端な案が、めぐさんにしたみたいに事情を全て話して付き合ってもらう方法」
「うーん、それは難しいだろうなあ」
 歩(あゆみ)が腕組みをして言う。若干ミニサイズになった腕を組むと、何だか胸を抱きしめているみたいになるが…まあいい。歩(あゆみ)は努めて女子高生になっている自らの身体と服装を意識しないように心がけた。…難しいけど。


第852回(2006年03月20日(月))
「まーねー。めぐさんみたいに『物分りのいい』人って珍しいだろうからね」
 確かに考えて見ればこのアホらしいほど突飛な現象を現実に存在するものとして受け入れて、その前提で話をテキパキ進めているのだ。ぶっちゃけ百人に一人しかいない人にぶち当たったと言えるだろう。


第853回(2006年03月21日(火))
「まあ、ぶっちゃけそれは期待出来ないよね。警察に通報されちゃうかも」
「それは変態ってことか?」
 ぴらりとプリーツスカートの端っこをつまみあげる。ささやかな嫌味である。


第854回(2006年03月22日(水))
「残念だけどそうじゃなくて、ちょっとどうかしちゃってる人ってこと」
「ああ、そういうことか」
「ということは中間の案しかないのかなと」
「だからその『中間』って何だよ」


第855回(2006年03月23日(木))
「つまり、お兄ちゃんは見かけは今みたいに完全に女の子だけど、実は男の子…ということにするの」
「…??…?」
 歩(あゆみ)はよく分からず少し考え込んだ。
 腕組みをしてその手を顎に当てて首をかしげる。
 と、長い髪がはらりと内側に向かってたれた。
 …客観的に見るとこれって無茶苦茶魅力的な「女の子」の所作だよなあ…とか思ったりした。


第856回(2006年03月24日(金))
 見ると何だかうるうるした目で聡(さとり)が見ている。
「…何だよ」
「いや…あゆみちゃん可愛いなあ…って」
「お前がやったんだお前が」
「いやそーだけれども」


第857回(2006年03月25日(土))
「ごめん、もう一度解説して。男の子が何だって?」
 女の子の声…って姿もそうなんだけど今は鏡に向かっていないのでそれほど意識できない…で制服姿で話しているとどうも複雑である。幾ら慣れたと言っても、とにかくしっかりと「自分は実は男なんだぞ」と思い込んでいないといけない。
「まー、はっきり言うと…オカマちゃん?…ということにするわけよ」


第858回(2006年03月26日(日))
「うーん…」
 また考えこむ歩(あゆみ)。
「ま、ある意味当たってはいるけど…大丈夫かな?」
「気持ち悪がられないかってこと?」
「まあ」
「大丈夫っしょ。あゆだって二十歳(はたち)の小娘じゃないんだし、業界ってゲイ多いって言うじゃん」
 十六の小娘がこまっしゃくれたことを言いやがる。


第859回(2006年03月27日(月))
 とはいえ、実は確かにその辺りの免疫はある可能性は多い。
 聡(さとり)とこんな話をしていて思い出したのだが、実はあゆこと沢崎あゆみの「ゲイバー」通いは有名である。ゲイそのものに抵抗があるということはまずない。
「でも、それはやだなあ」


第860回(2006年03月28日(火))
「女の積りだったら実は男だったといのよりも、最初から男…っていうかオカマちゃんだって言っとけば“騙した”ってことにはならないと思うけど」
「別に騙す積りはなかったんだけどなあ…」
「やっぱ男として出会いたかった?」
「まあ、男のファンとしてというか…」