おかしなふたり 連載1301〜1320 |
第1301回(2007年06月27日(水)) 『ずばりあゆみちゃんはその子のことが好きでしょ?』 「な、何を言ってるんですか!」 『おや?図星かな?』 「何でもいいから早く聡(さとり)に電話して今の僕を戻させてくださいよ」 第1302回(2007年06月28日(木)) 『まー男の子だからね。女の子のままじゃあ落ち着かないってのは分かるよ』 その辺の理解は一応はあるらしい。 『よし、今日は乗っといてあげる』 「有難うございます」 |
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第1303回(2007年06月29日(金)) 『大船に乗った気でどっか人目につかない場所にいなさいよ』 “変身”を目の前で見たことがあるだけに、変身する瞬間を見られてはならないことを知っている。流石だ。 第1304回(2007年06月30日(土)) 「ホント、シャレになってないんでお願いしますよ。本当に」 冷静に考えればこのことで愚痴をこぼせるのはこの人しかいないなあ。 『でもあんたがた本当に仲良いよねえ』 |
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第1305回(2007年07月01日(日)) 「そうですか?」 兄妹喧嘩そのものが余り記憶に無い兄としてはそれほど特別なことだとは思えないので、よく言われるがその度に違和感がある。これくらいは普通だろうと。 『あたしは兄貴がいるけど、もしもさっちゃんみたいな能力があったらもおいびりまくりよ』 恐ろしいことを言う妹だ。 第1306回(2007年07月02日(月)) 「めぐさんところは仲悪かったんですか?」 『悪いなんてもんじゃないわよ。毎度殺し合い寸前だったんだから』 「いや、それは…」 『だってあたし喧嘩で階段の一番上から突き落とされて入院したもん』 「…」 それは凄まじい話だ。 |
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第1307回(2007年07月03日(火)) 『最近はお互い社会人になったし少しは丸くなってきたけどさ』 ま、その話は今度聞く事にしよう。 「…一応お願いしときますけど、すんなり戻してくださいね」 『…何のことかな?』 明らかに狼狽した声である。 第1308回(2007年07月04日(水)) 「戻る前にコスプレとか勘弁ですからね」 『…あゆみちゃん、読心術でも習ってるの?』 やっぱりか…。 「今度は何を狙ってたんですか?」 『いや、夏だから水着なんか悪くないかなと』 思考パターンが妹と同レベルである。 |
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第1309回(2007年07月05日(木)) 「今度あった時にリクエストには答えますから、今日は素直に戻してくださいよ」 こうやって安売りするからいけないんだろうなあ…とは思うんだが事態は急を要するのである。 『じゃあさ、あゆみちゃんも安全なところに移動するまでの時間が欲しいだろうから、5分待つわ。5分経ったらあたしから説得するから』 「了解です」 第1310回(2007年07月06日(金)) 歩(あゆみ)は電話を切った。 とりあえず、不安は沢山あるけど一応約束は取り付けた。 急げば駅前の商店街にはたどり着ける。 |
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第1311回(2007年07月07日(土)) 正直、そういうところでトイレに入ったことってあんまりないんだけど、場合が場合だから仕方が無い。 歩(あゆみ)は走った。 炎天下なので汗が吹き出る。 …くそう、何でこんな目に遭ってるのか。さっきまでは冷房の効いた部屋で勉強してたのに…。 第1312回(2007年07月08日(日)) 走りながら色々考える。 本屋とかはあんまり良くない。多分トイレなんて設置されて無いと思う。店員用のはあるだろうけど、すぐにわからないからな。 コンビニも余り気が乗らない。何しろ先に入られていると大変である。待っている間に店内で変身…とか絶対に避けたいところだ。 |
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第1313回(2007年07月09日(月)) 色々考え合わせると、やっぱりファーストフード店、それも大手のハンバーガーショップがいい。 確か三階建てだったはずだ。全ての階にトイレがあったかどうかは忘れたけど、結構奥まったところに幾つかあるはずだ。 …今の自分は…女子トイレに入っても大丈夫なのか? ちょっと考えた。 第1314回(2007年07月10日(火)) ここのところはとても大事だから慎重に考えるべし。 まず、今の自分は女の身体である。 服装は男だから、男でも通じないことは無いが、とりあえず肉体的には女だ。 駅前のファーストフード店に向かって大股で歩きながら脳細胞を活性化させる。 |
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第1315回(2007年07月11日(水)) 仮に女装(?)していても、男子トイレにも女子トイレにも入れるだろう。 男が女子トイレに入れば犯罪者だが、女が男子トイレに入っても…とりあえず犯罪者ではない。 明らかに不公平だが、とりあえず今はいい。 第1316回(2007年07月12日(木)) 問題は、中で男に戻ることである。 ここがとても大事だ。 つまり「出るときは男」ということだ。 …アブナイアブナイ。 危うく肉体に合わせて女子トイレに入るところだった。 もしそれをやってしまうと、「女子トイレから男が出てくる」事態になってしまう。 |
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第1317回(2007年07月13日(金)) つまり正解は、このまま男子トイレに入って元に戻ることである。 やっとこさ、駅前にさしかかった。 閑静なベッドタウンとて、駅前の繁華街ともなるとかなりの人である。 時刻はそろそろ夕方にさしかかりつつあるので、普通に学校を終えた中学生なども人手に加わっている。 第1318回(2007年07月14日(土)) この中でこんなアホなことに巻き込まれている人間なんていないんだろうなあ…とか考える。 いや、もしかしたらある瞬間から人類の中にぽつぽつこんな能力を目覚めさせたのが出てきているのでは…。 とか何とか妄想を豊かにしてみる。 |
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第1319回(2007年07月15日(日)) もしも本当にそんなことになったんならもっと話題になっているはずだ。 はずなんだが…逆にここまで突飛だと却(かえ)って表ざたにならないかも知れない。 そもそも発現してからまだ三週間程度である。 ウチの兄妹はこの能力を使いまくっているからかなり「使い慣れて」しまっているが、まだ気が付いていない人間もいるかも知れない。 というかそもそもウチの兄妹だって本当はいつからこんな能力があったかなんて正確には分かりゃしないのである。 第1320回(2007年07月16日(月)) 自分たち以外にもいるのかも知れない…。 そう考えるのはある意味楽しい。自分以外にも犠牲者がいると考えるだけでちょっとは気が晴れるわい。 とか何とか考えている内に遂にハンバーガーショップに到着した。 |