おかしなふたり 連載461〜470

第461回(2004年12月20日(月))
「ふーん・・・それじゃあさあ」
「帰ったら付き合うから」
 なんだかもう性転換も女装も普通になってしまっている。

「いや、そうじゃなくてちょっと試してみたいことがあるのよ」
「実験なら今までも散々・・・」
「いや、そうじゃなくてさあ、今までってあたしたちは服までお互いに変えてきたじゃん」
「うん・・・」
「ぶっちゃけあたしもお兄ちゃんが着てたみたいな可愛い制服とか着たいわけ」
 人聞きが悪い言い方だが、事実なだけに仕方が無い。親がいたら絶対に聞かれたくない会話だ。
 というか「着てたみたいな」って全部お前が着せてるんだろうが・・・。


第462回(2004年12月21日(火))
「・・・それで?」
 歩(あゆみ)としてはこうまでじゃれてくれる妹に邪険にするいわれは無いんだけど、どうしても警戒してしまう。
「だからさー、今からおにいちゃんにそーゆーの着てもらうから、それをあたしに貸してほしいの」
「・・・へ?」
 しばらく時が止まった。
「えー、つまり俺が服を脱いでお前に渡せと・・・?」
「うん。そー」
 天使のような・・・ではなくて小悪魔のような笑顔である。


第463回(2004年12月22日(水))
「嫌・・・とは言えないよな」
「人聞きが悪いなあ。まるで強制してるみたいじゃん」
「違うのかよ」
「大丈夫!代わりにあたしも提供するから」
「え?」
「つまり、お兄ちゃんがあたしに格好いいのを着せてくれればいいのよ。それを交換すればいいじゃん」
「・・・」
 歩(あゆみ)は絶句した。何て事を考えるのか。
「だって、お兄ちゃんが服をあたしにくれちゃったら裸になっちゃうじゃん。」
 もう「くれちゃう」ことになっているらしい。
 歩(あゆみ)はちょっと考え込んだ。
 実はこれはこれまでやっていそうでやっていない実験である。


第464回(2004年12月23日(木))
 これまで聡(さとり)が歩(あゆみ)に対して、言ってみれば「男装」させてみようとしたこともある。しかし、どうしてもお互いに異性の服しか着せられないみたいなのである。
 つまり、聡(さとり)が歩(あゆみ)の服を変えるのはスカートを始めとした女性の服にしかならない。逆もまたしかりで、歩(あゆみ)が聡(さとり)の服を変える際に、男物の服にしかならないのだ。お互いに異性装しか出来ない。
 確かに基本的に男性のファッションにはスカートは無い。ある場合もあるらしいんだけど、少なくともこの能力では歩(あゆみ)が聡(さとり)を「男装」ということでスカート姿にすることは出来なかった。
 しかし、女性にはパンツルックもある。勿論、聡(さとり)は“面白くないから”ってことでまずそんな地味な格好はさせてくれないし・・・。

 であるから、結果的には「相手を異性装させる」という嬉し恥ずかし体験しか出来ないのだった。聡(さとり)は男の子に、そして歩(あゆみ)は女の子に・・・という訳だ。

第465回(2004年12月24日(金))
 とはいうものの、聡(さとり)にしてみれば、確かに目の前に自分が大好きな“可愛い制服”があるのに、自らの服を自ら変えることも変えてもらうことも出来ないというのは確かに歯がゆいだろうなあ、という気はする。
 こんなに兄の身体を実験体にしてあれこれ着せ替えを楽しんでいるのも、基本的には女の子らしい“可愛いもの好き”の感性がなさしめるものなのだ。そう考えればほほえまし・・・いのかもしれん。
 いつもいつも性転換と女装させられるこっちにはいい迷惑なんだけど・・・。

 歩(あゆみ)は渋っていたが、観念した。
「・・・じゃあ、やってみるか」
「ありがとー!お兄ちゃん!」
 喜んで飛び上がりそうになる妹。

 ・・・それとほとんど同時だった。

 むわっ!と胸に違和感を感じる。
「・・・っ!?」


第466回(2004年12月25日(土))
「っあっ!」
 “ぼんっ!”とばかりに盛り上がる胸。
「ちょっと待ったあ!」
 珍しく歩(あゆみ)が大きな声を出した。
「え?」
 初めてのことだったので聡(さとり)が戸惑って、遂に止める。
「あのさあ、ちょっといいかな?」
 おっぱいだけ大きくなった状態の歩(あゆみ)が身振り手振りで妹に話しかけている。
「・・・うん?」
「折角“実験”だってんならこっちからも提案があるんだけど・・・ってこの胸まずは戻せよ」
「いいけど・・・このおっぱいだけ大きい状態もいいもんじゃない?」


第467回(2004年12月26日(日))
「よくねーよ!」
 身体を余り細くしない状態で乳房だけ大きくしているものだから服がパンパンに張ってしまっている。実は男女の「胸囲」のサイズそのものは余り差が無い。下手すると男性の方が大きかったりする。
「苦しいから早く戻せ」
「うん・・・」
 聡(さとり)が躊躇いながらもうなずく。
 しぼんでいく乳房。


第468回(2004年12月27日(月))
 一般には「女性の方が胸が大きい」というイメージがついている。
 それは余り正確な表現とは言い切れない。言ってみれば男性は「胴体」そのものが大きいのに対し、女性は胸に膨らんだ突起がついていて、その周囲のサイズが、胴体そのものに対して“差がある”という形態を取っている訳だ。トップバストとアンダーバストという奴だ。
 であるから基本的には女性は胴回りだけ取れば遥かに男性よりも小さい傾向にあると言える。
 明確に突起があるので否応無しにそれが目立つ。だから「胸が大きい」ということになるのだ。つまり“メリハリが大きい”ということ。
 ちなみに歩(あゆみ)も聡(さとり)も知らないが、男性が女装してドレスのような「胴全体をぴったりと包み込む」衣装を着ようとした際に「肋骨が引っかかる」というのはこのことを言う。これはどれほどガリガリに痩せている男性でも同じなのである。痩せていればすなわち女性物が必ず入るという訳でもない。

「よし・・・じゃあ提案なんだが」

*これにて2004年の連載は終了になります。長きに渡った中断期間にもめげずに付いてきていただきまして本当に有難うございました。来年も頑張ります。
 ということで真城はこれからコミケに向かいます。来年の再開は1月4日(火)からになります。よいお年を!

第469回(2005年01月04日(火))

「なに?」
 珍しく神妙な表情の聡(さとり)。
「いつも思うんだけどさ・・・」
 首を傾げている聡(さとり)。可愛い。
「いつも身体を変えてから服も変えてくれるじゃんか」
「うん」
「とりあえず今回は服を交換するのが目的だろ?」
「そうだけど・・・」
「だったらまずは条件として、今度という今度は下着は変えないこと」
「・・・」
 口を尖らせている聡(さとり)。小学生か。
「だって必要ないだろうが。スカートだかブラウスだか知らんけど、脱いで渡せばいいだろ?まさか下着まで交換するわけでも無いし」
「それにだ」
 歩(あゆみ)は更に話を続けた。


第470回(2004年01月05日(水))
「今回はその・・・身体もいらんだろ?」
 流石に“性転換”とかいう単語は口に出しにくい。事実そのまんまなのだが。
 と、聡(さとり)が腕を組んで考え込んでいる。
「駄目だよそれ、お兄ちゃん」
「どうしてだよ?」
 ちょっと語気を荒げて言う。
「だってさあ」
 何故か、にこにこと嬉しそうな聡(さとり)。
 うふふ、と口に手を当てて笑っている。
 様子がおかしい。
 どうしたというのか?そう思うほど異常だった。
 遂にはまるで窒息するように“おかしくてたまらない”という具合に笑い転げ始めたではないか!
「???」
 その様子に怪訝な表情をする歩(あゆみ)。何かまたマズイことを言ったのか?